千原徹也|デザイン=コミュニケーションをつくること。原宿からはじまるクリエイティブと学びの未来|Adobe MAX Japan 2025
2025年2月13日に開催された「Adobe MAX Japan」。
3,000名を超える参加者によって満員御礼となった東京ビックサイトの会場は、現場の第一線で活躍するクリエイターによるアイディアやテクニックが披露され、終日、冷めることのない熱気に包まれました。
この記事では数あるコンテンツのなかで、ひときわ多くの人を集めたセッション「デザインだけでは生き残れない時代を生き抜くアイデア」で語られた、株式会社れもんらいふ代表/アートディレクター・千原徹也さんのデザイン哲学と、千原さんが学長を務めるクリエイティブスクール「Re: DESIGN SCHOOL」について紹介します。


千原徹也
株式会社れもんらいふ代表/アートディレクター
1975年京都府生まれ。2011年に、デザイン会社れもんらいふを設立。広告(H&Mや、日清カップヌードル×ラフォーレ原宿ほか)ブランディング(ウンナナクールほか)、CDジャケット(桑田佳祐 「がらくた」や吉澤嘉代子ほか)ドラマ制作、MV、CM制作など、さまざまなジャンルのデザインを手がける。東京応援ロゴ「KISS,TOKYO」発起人、富士吉田市の地方創生など活動は多岐に渡る。
2023年7月、映画監督作品「アイスクリームフィーバー」公開。2024年には、東急プラザ原宿・ハラカドに事務所を移転し、オープンな場所でのコミュニティ、ショップ、スクールなどが融合した、新しいかたちのデザイン会社を展開中。
移り変わるデザイナーの役割、デザインの定義
2011年、関西から上京した千原さんが立ち上げたデザイン会社れもんらいふ。当初はそれまでの経験を活かしたグラフィックデザインを中心に活動をしていましたが、設立から13年の時を経たいま、デザインを取り巻く状況はどのように変わったのか。セッションは「デザインだけやっていても生き残れない」という、目の醒めるような言葉から始まりました。
「れもんらいふは上京して7年目のときに始めた会社です。
普段は依頼をいただいて、CDジャケットやグラフィック、ロゴ、エディトリアルデザインの仕事をしていますが、毎年、デザインの仕事は減っていくばかりです。
かつて、CMや広告といえば花形のメディアでしたが、いまはSNSの登場によってインフルエンサーが広告案件を受け持ち、AIがつくったwebバナー広告を回すほうが、より検索に引っかかり、効果を生む時代になりました。
僕が何日もかけてデザインしたものには、ほとんど“いいね”がつかなくても、人気インフルエンサーが“この商品、おもしろいよ”と言えば、100万回再生される。“視覚的なデザインというものが必要なくなっている”というのがデザインの現状だと思います」
“効率だけを考えるのであれば、AIにまかせたほうがいい”。
そう分析する一方、その状況をデザイン視点で俯瞰したとき、AIに広告をまかせることには懐疑的な目を向けています。
「僕たちはこれまで、きれいな書体を選び、文字ツメに時間を割き、美しい写真を選び、キャッチコピーもいいものを……と一生懸命にデザインをしてきました。
それに対して、AIが作る“売れる広告”は見た目がダサいんです。確かに売り上げは一気に上がるかもしれない。けれど、そのブランドにとって、“その方法で本当にいいのか”を考えなくてはいけない。10年後、そのブランドがどうなっているのか。20年後、社会のなかで生き残っていけるのか。それはAIには答えられないことなんです。
僕たちデザイナーはいま、売れる/売れないに頭を悩ませるのではなく、10年後、20年後のためにブランディングとデザインを考える必要があると思っています」
さらに革新的なアイディアもまた、AIではなく、人の手によって生み出されるものだと、千原さんは話します。
「2000年に佐藤可士和さんが作ったSMAPのデザインは、青・赤・黄色の3色に小さく文字を載せただけのものでした。当時の常識から考えれば、本人たちが写っていないアイドルのCDジャケットなんてありえないことだったんです。
佐藤可士和さんは、この青・赤・黄色のグラフィックを、ジャケットから広告まですべて展開した結果、何が起こったか。SMAPのアイドルという概念が引き上げられ、誰もが“SMAPはほかのアイドルとは違うんじゃないか”と感じ、クリエイティブの人たちはみんな、“SMAPとなにかやりたい”と思うようになりました。国内外のデザイン賞も多数受賞し、その意味でも革命的なデザインでした。
こうした、“それまでの概念を打ち崩す”革新的なものを生み出すことは、いまのAIには難しいですよね。このアイディアに辿り着いた佐藤可士和さんは本当にすごいと思います」
デザインは絵作りではなく、コミュニケーション
AIの登場に加え、コロナ禍による働きかたの変化もまた、クリエイティブに大きな影響を与えています。
「すべてがAIが完結し、リモートワークで働けるようになると、会社に行く必要すらありません。でも、いろいろな知識を持ち、カルチャーを知る人たちと会社で無駄話をしているほうが、新しいアイディアが生まれることもありますよね。いまこそ、人と人とのやりとりが重要なんじゃないかと思いますし、会社に行くことが楽しく思えるようにしないといけない」
人が交わり、新しいものを生み出す。
千原さんはその考えを、自らのデザイン事務所で実践しています。
原宿・神宮前交差点に位置する東急プラザ原宿「ハラカド」3階、間仕切りもないオープンな空間が、デザイン会社れもんらいふのスペースです。
「ハラカドのプレゼンテーションに参加するにあたり、各社がテナントやブランドの提案をするなかで、僕は“ワンフロア、れもんらいふにしませんか”という提案をしました。
デザインの作業場が中心にあり、僕たちがデザインした洋服が売られ、食堂があり、集めたレコードが販売される。クリエイターが自然とそこに集まって会議が始まり、自然と何かが生まれる……そんな場所をクリエイティブな状況が起きる場所にしたいと。
その結果、“7階建てのビルの3階までエスカレーターで上がってくると、突然、目の前にデザイン事務所がある”という、いまのハラカドのかたちになったんです」
“原宿で、一緒に何かやろう”のキャッチコピーを掲げ、れもんらいふはハラカドに移転。そのユニークな取り組みは海外でも取り上げられるほど注目を集め、デザインの仕事も移転前に比べて、3倍に増えたと千原さんは話します。
2024年からはハラカド内でデザインスクール「Re:DESIGN SCHOOL」を開講。原宿の地で、デザインを起点に活動の幅をさらに広げています。
「もう何をやっている会社なのか、自分でもわからなくなってきましたが、ただひとつ言えるのは、デザインとは“絵作り”ではなく、“コミュニケーション”だということです。人と人のコミュニケーションの結果、おにぎりを作って売ることになったこと、つまらない話をする場所を作ること、スクールを開講したこと……そのすべてが、僕にとってのデザインなんです」
新しいことを始めるとき、千原さんはまずロゴを作ると言います。
そのロゴは文字ばかりの企画書よりも強く、人の心を惹きつけ、その趣旨に賛同する人を導く御旗となります。千原さんにとって PhotoshopとIllustratorは、描いた理想を具体化するために、なくてはならないツールです。
「さまざまな場を作ることができたのも、映画のような新しい取り組みに無鉄砲に挑戦できたのも、PhotoshopとIllustratorというかたちにできるツールがあったからこそ、成り立っています。
これからデザインの仕事をやろうとしている人は、PhotoshopとIllustratorの技術を身につけたら、どんどんデザイン以外のことにも取り組んでほしいですね」
千原さんは最後、「ぜひ、ハラカドに遊びに来てください」と呼びかけ、満員のセッションは幕を閉じました。デザインの世界を取り巻く状況を冷静に分析し、そのなかで活路を見出すヒントを提示した千原さんに、会場からは惜しみない拍手が送られました。
原宿で学ぶ、リアルなコミュニケーションデザイン
千原さんの事務所がある東急プラザ原宿・ハラカドで、自らが学長を務める「Re:DESIGN SCHOOL」。“専門学校を再デザインする”というコンセプトのもと、2024年にスタートしたデザインスクールは、どのような経緯で誕生したのか。Adobe MAX Japanを終えた千原さんに話を伺いました。
「『Re:DESIGN SCHOOL』を始めたのは、デザイン=コミュニケーションの作りかたに興味を持った人が、原宿というカルチャーを肌で感じながら、ともに学べる場を作りたかったからです。
若いクリエイターを育てたいというよりは、仲間を増やしたいという感覚に近いですね。卒業したら終わりではなく、ハラカドに来たついでに僕のところにも寄っていく。そんな関係が続くのも“原宿らしい”と思っています」
講師、授業内容ともに、どこまでもリアル。
それが「Re:DESIGN SCHOOL」ならではの強みです。
「“ハラカドの広告を一緒に作る”というテーマなら、東急不動産の方にオリエンいただいたうえでプランを考え、チームごとでプレゼンまで行ないます。ほかにも、スタジオでモデルさんをディレクションして撮影したり、ZINEを作ってハラカドで実際に売ってみたり。
講師もグラフィック、映像、音楽、CGいずれの分野でも、現役で活動を続けるトップクラスのクリエイターの方にお願いしています。
講師は実際の仕事の延長としてここに来て、受講生とともにプロジェクトを進めることもできる。スクールと現場を地続きにするためにも、“現役であること”は重要なポイントだと考えています」
各分野のコースとは別に、千原さんと関わりのあるクリエイターを招いた特別講義も開催しています。
「受講者全員が参加できる特別講義があるのもこのスクールの特徴。2時間の講義のあとは、懇親会も開いています。2025年5月からの第2期スクールには、箭内道彦さん、TOWA TEIさん、鈴木えみさん、軍地彩弓さん、田中杏子さん、金泉俊輔さん、MEGUMIさんが登壇されます。
僕としては、“雲の上の存在だと思っていた人たちと、同じクリエイターとして原宿で出会ったという体験”をしてほしいんですよね」
*2025年4月までは 誰でも参加できる特別講義を開催中。詳細は記事末参照
デザインをコミュニケーションの創造と捉え、その学びの機会を提供する「Re:DESIGN SCHOOL」。受講生が現役クリエイターだけではないのもユニークなポイントです。
「第1期は、本当に幅広い方に参加いただきました。ステップアップを目指す20代もいれば、子育てを終えたデザイナー志望の40代、コミュニケーションを学びたいと受講した50代の県庁職員の方もいます」
なかには、何をやりたいのかわからなかった青年が「Re:DESIGN SCHOOL」での学びを経て、“千原さんのようになりたい”と美大受験を決意。2025年4月から武蔵野美術大学に通うことになった受講生も。
まさに「Re:DESIGN SCHOOL」で人生が変わったケースと言えるでしょう。
「Adobe MAX Japanの参加者が、講演後に“入ります”と言ってくれたり、“説明会に行きます”と伝えに来てくれたのはうれしかったですね。
2025年5月の第2期開講までは、定期的に説明会を開いているので、ぜひ話を聞きに来てもらえたらと思います」
千原徹也さん

第2期生募集中!無料説明会や誰でも参加できる特別講義も開催
千原さんが学長を務める、新しいクリエイティブスクール 「Re:DESIGN SCHOOL」が、2025年5月からの開講に向けて第2期生を募集しています。プロのクリエイターによる豪華な講義から、PhotoshopやIllustratorなどのツールの使いかた、クリエイティブな視点を養うためのカルチャーまで学ぶことができる、これまでにない学校です。
第2期はグラフィック、音楽、映像など、6つのクラスが開講され、グラフィックデザインはオンラインクラスも新設。原宿・ハラカドで無料説明会を定期的に実施しているので、興味・関心のある人はぜひご参加を。現在、開講までの間は誰でも参加できる特別講義を開催しており、4月14日には佐藤可士和さんも登場する予定。
Re:DESIGN SCHOOLホームページ
https://www.redesignschool.jp/
無料説明会・特別講義の詳細・申し込みページ
https://peatix.com/group/15214949