SNS 配信の効率化とブランディングを両立。土屋鞄製造所のデザイナーとマーケターが Adobe Express で実現した制作フロー
株式会社 土屋鞄製造所は、創業以来 60 年間、本当に良いものを届けたいとランドセルをつくり続けてきた老舗のメーカーです。同社のものづくりに対する姿勢はよく知られていますが、製品を提供するだけに留まらず、ランドセル選びから購入までの体験を豊かなものにすることにも注力しています。その背景にあるのは、「人生で一度しか選ばないものだから、その経験が大人になっても思い返せるような、家族の会話の中心になれる暖かいものであってほしい」という願いです。
この姿勢は、ランドセル選びには欠かせない製品カタログにも表れています。今年配布されているカタログの内容は、各モデルの紹介はもちろん、職人の手仕事へのこだわりを紹介する文章や、同社のランドセルが在る日常を切り取った写真など、「子供にこんなものを送りたい」「子供がこんな日々を送ってくれたら」という家族の思いに寄り添うものです。また、カタログに同封されている大判紙には、親子が一緒になって楽しくランドセルについて学べる、すごろくを模したガイドが描かれています。
親子でランドセルについて学べるランドセルたんけんシート 提供: 土屋鞄製造所
大判紙の裏面は、色別に並べられたラインアップを一覧できるようになっていて、気に入った色を赤丸で囲んで店舗に持って来る子供もいるそうです。どちらも親子の会話が弾む場を提供する素材として、社内で企画されデザインされています。制作には Adobe Illustrator や Adobe InDesign が使われています。
2026 年ご入学用ランドセルのラインアップも確認できる 提供: 土屋鞄製造所
インハウスで完結することの強み
ブランドイメージを大切にしている同社は、カタログに限らず、ランドセルに関わる顧客とのコミュニケーションのほぼ全てを社内リソースで賄っています。会社のミッションやランドセル事業部の役割、詳細なブランディングのルール、その年に打ち出したいストーリーなど、全体を把握している各部門の担当者が協業して様々なコミュニケーションの企画から制作まで行えるのは同社の強みであると、ランドセル事業企画部 ランドセル販促企画課 市村真由氏は話しました。
「SNS で配信すると、反応が数値として表われます。それを分析すると、お客様が今はこの情報の方が欲しかったんだということが分かりますので、毎週結果をレビューしては、すぐに新しいコンテンツに反映して、ご期待にお応えできるよう頑張っています。その際に、企画を深く理解しているデザイナーがすぐ近くにいて、一緒に全ての数値を見て、互いに案を出し合いながら作業できることは、回転の速い SNS の案件において、本当に助けになっています。これはインハウスだからできることです」
ランドセル事業企画部 ランドセル販促企画課 市村 真由氏
同社は、SNS コンテンツ制作に Adobe Express を採用しています。ガイドラインとトンマナに沿ったテンプレートをデザイナーが作成し、写真とテキストをマーケターが差し替えるというのが基本的な手順です。デザイナーとマーケターが同じアプリを使うことにより、これまで以上にコンテンツ制作フローが効率的になったと市村氏は言います。
「Adobe Express は、デザイナーではない私でも、細かい説明を見ることなく使える点が、とてもありがたいです。例えば、デザイナーが入れてくれたテキストから一文字削りたいとなったとき、従来であれば、修正をお願いして、その結果を確認してといったやりとりが発生していました。それが、自分で直して完成させられるようになったため、修正フローが格段に短縮されました。また、デザイナーと同じアプリを使えることで、細かな調整のためのコミュニケーションもしやすくなりました。スピーディーさを求められる状況で、いち早くお届けできることは大事です。作業フローに Adobe Express を導入して、より上手く PDCA サイクルを回せるようになりました」
Adobe Express のテンプレート。マーケターが自分でテキストや画像を編集できる 提供: 土屋鞄製造所
Adobe Express が選ばれた理由
近年、同社では SNS 向けコンテンツの制作数が急増しているそうです。これは、購買に至るまでに SNS 等から得る口コミの影響力が大きいことを示す調査結果や、子育て中でも見られるような、短くても内容の濃い情報を求める顧客が世代的にも増えている状況を反映したものです。
増え続ける案件を素早く回すには、クオリティを担保しつつ工数を減らす手段が必要です。クリエイティブセンター 後藤二子氏が Adobe Express の存在を知ったのは、「Express っていうのがあるらしいぞ」という上司の一言でした。Creative Cloud コンプリートプランに Adobe Express が含まれていたために、すぐに試してみたところ、これはデザイナーではないメンバーとの間で、ブランディングに関する共通の認識を持って効率的に作業できるアプリだという感触を掴むことができたそうです。
デザイナーの立場から後藤氏は、Adobe Express を選択した主な理由として、ブランドアセットを登録できる機能を挙げました。特に、簡易なデザインツールながらも、会社指定のフォントを使用できることが嬉しかったといいます。
Adobe Express にブランドアセットを登録 提供: 土屋鞄製造所
また、同じファイル内で画角の異なる画像を作成できることも、Adobe Express の便利な点だと後藤氏は指摘しました。
「正方形の画像も、ストーリー向けの 9:16 の画像も、同じファイル内で量産できるためにファイルを切り替える手間がかかりません。これは、地味ですが作業効率に貢献していると思います」
画角の異なる画像を同じファイルに作成できる 提供: 土屋鞄製造所
加えて Adobe Express ではシンプルなアニメーションを簡単な操作で付けることが可能です。動きを加えてほしいと言われたときに、テキストをふわりと出したり、画像をゆっくり切り替えたりといった動きを手早く作成できることは、限られた時間の中で一定の効果を求められることが多い SNS コンテンツの制作には有用だと後藤氏は話しました。
簡単なアニメーションは Adobe Express で作成 提供: 土屋鞄製造所
Adobe Express と Adobe Photoshop/Adobe Illustrator の連携
後藤氏は、最近になって Adobe Photoshop や Adobe Illustrator のファイルを Adobe Express に組み込む方法の存在を学んだそうです。
Adobe Express エディタを開き、マイファイル > ファイルに移動して、Photoshop または Illustrator ファイルをエディタにドラッグすると、ファイルが平坦化された画像として追加されます。この画像は元のファイルにリンクされているため、画像を選択して「リンク素材」パネルの「Photoshop で開く」あるいは「Illustrator で開く」を選ぶと、元のアプリで編集できます。修正した結果は、Adobe Express エディタ内のリンクされている画像に同期されます。
もう一つの手段は、Adobe Express のホームページで、「自分のコンテンツから開始」を選択し、ダイアログから PC 上の Photoshop ファイル、または Illustrator ファイルを指定することです。すると、そのファイルがレイヤー化された Adobe Express ファイルに変換されます。変換されたファイルの各レイヤーは、そのまま Adobe Express で編集できます。こちらは、元ファイルを編集しても、 Adobe Express ファイルに同期されることはありません。
「Adobe Express は、デザイナーとマーケターが連携し、案件を素早く回すことが求められる場面において適切な選択肢となります。機能がシンプルに限定されている点は、スピードを重視する局面における長所です。ただし、機能的には Photoshop、Illustrator、Adobe Premiere Pro などの簡易版であることは明確です。特に Adobe Firefly の生成 AI 機能は Photoshop の方が充実しています。クリエイティブチーム内では、引き続き Photoshop 等のアプリを活用して、細部までつくり込むことでブランド価値を保っていくつもりです。今後、Adobe Express と各アドビアプリの連携により、品質の高いクリエイティブをスピード感を持って運用していけることを期待しています」
職人のこだわりが詰まった土屋鞄製造所のランドセル