被写体の本質的な美しさをPremiere Proで紡ぎ出す、フィルムディレクター / フォトグラファーの山口侑紀さん
株式会社W所属のフィルムディレクター / フォトグラファーである山口侑紀さんは、グローバルブランドのCMやファッション誌のポートレイト、CDジャケット、キャンペーンのアートディレクションなど多岐に渡る活動でその名を知られるクリエイターです。キャリアの始まりはファッションスタイリストでしたが、後にカメラマンとしての師匠との出会いをきっかけに、映像制作という新たな道を切り開きました。高い美意識と繊細な感性が紡ぎ出す、ハイエンドな映像作品に込められた想いを中心にお話を伺いました。
どのような種類の動画(映像)を制作していますか?
ファッション誌(VOGUE、GQ、Esquire)、自動車(Mercedes-Benz、Ferrari)ビューティー(YSL)、俳優・アーティストなどのコマーシャル映像を手がけています。
撮影内容にマッチしたスタイルで臨む
動画を仕事にされたきっかけは?
もともとスタイリストをしていて、成果も出ていました。もっと上を目指していこうと考えていたところ、師匠となるHIRO KIMURAさん(スタイリストからカメラマンに転身したキャリアを持つ写真家、映像作家)から「お前は俺と同じ道をたどることになる」と宣言されたのです。それまではカメラを仕事にするなんて思っていなかったし迷いもありましたが、それを機に写真撮影と映像制作の世界に足を踏み入れました。
スタイリストからカメラマンに転身、同時に映像制作へ
動画の制作は何年目でしょう?
アシスタント時代6年、独立して2年の計8年です。
動画制作はどうやって学びましたか?
いきなり仕事をしながら学びました。兄弟子が隣で作業しているのを横目で見て、やり方を都度質問して、自分でトライしてみるという繰り返しで、少しずつ感覚で身につけていく感じでした。
写真も動画も仕事をしながら感覚で習得
年間の制作数は何本くらい?
ディレクション作品込みで動画は100作品、写真を含めるとその倍くらいです。
特に反響が良かった、思い入れがある作品は?
VOGUE featuring CHANELは反響がありました。しかし自分としては常にベストを尽くしたいと思っているので、全ての作品に対して同じモチベーションで取り組んでいます。
動画制作を行う上で気をつけていることはありますか?
奥行きでしょうか。
写真は瞬間を平面で切り取っていきますが、映像は立体的に物事が連動して動きます。そのため、空間のイメージを持った上で作り上げていくよう、思考を変える必要があるのです。
常に何かが動いている状態こそが動画であると思っています。しかし被写体だけが動いていても、カメラだけが動いていても絵にはなりません。同時進行で全てを動かすという思考で物事を見ていくことで、全てのカットの連動性が保たれるよう気をつけています。
映像は空間イメージを持って作る必要がある
また、絶対的に大事だと思っているものはトーンとカラーです。モノクロでも黒の締まり具合だとか、それがグリーンに少し転んだ黒なのか、赤みに振ったモノクロなのか。本当に微妙な差なのですが、とても重要なことなので気をつけるようにしています。
カメラの性能が上がりオートで誰でも綺麗に撮れるからこそ、マニュアルで自分で調整して作り上げていくプロセスが人間味を残す上ですごく重要な部分なので、常にそこを意識しています。
Premiere Proを使い始めたきっかけは?
師匠が「覚えなさい」と(笑)。写真で必須のAdobe Photoshopとの関係もあり、選択肢はありませんでした。
Photoshopとの連携は重要なポイント
初めてPremiere Proを使ったときの印象は?
映像表現の奥深さを感じました。写真では考えない1フレーム以上の映像表現とそれに付随する音の連動性など知見を深めなければいけないなと。
一方でトーンカーブやレイヤー構成の概念など、Photoshopと共通している部分はすぐに理解できたので助かりました。逆に後からPhotoshopを学ぶアシスタントには、Premiere Proのここと一緒だよという教え方ですぐに理解してもらっています。
よく使うお気に入りの機能や便利だと思う機能はありますか?
Premiere Proのカラーコレクション/グレーディング機能であるLumetriカラーは、撮影現場でもよく使います。Photoshopライクな調整項目を素早く操作して、その場でクライアントに完成イメージを見てもらえるのでとても便利ですね。
仕上げの段階では、肌のレタッチにガウスぼかし(ブラー)をよく使います。ニキビ跡などをマスクで範囲指定してブラーをかけ、それをトラッキングさせる方法です。プラグインやAfter Effectsを使うのではなく、Premiere Proの標準機能で完結させることにこだわっています。ショートカットも同様で、カスタマイズをすると他のスタッフが分からなくなるので、デフォルトの状態で作業するよう心がけています。
Lumetriカラーを用いて撮影現場で完成イメージまでグレーディングを行う
作業効率やクオリティについてはどう思いますか?
Adobe Creative Cloudの他のアプリケーションとスムーズに行ったり来たりできるので、とても効率的です。オーディオ編集にAdobe Audition、ロゴデータの調整などにAdobe Illustrator、写真はAdobe BridgeからCamera Rawを通してPhotoshopで編集しています。
動画編集ビギナーに向けてPremiere Proのどのようなところがおすすめできますか?
スマホのアプリでも編集はできますが、ある一定以上のクオリティで世の中にアウトプットしていくためには、Premiere Proのようなそれ相応のソフトウエアでしっかり編集していくべきです。スマホのアプリは独特なところがあるため、どうせ覚えるなら最初からプロのツールを使いましょう。
山口さんにとってのPremiere Proとは?
端的に言えば“自己認識を深め表現力を高めてくれるもの”ですね。
Premiere Proは自己認識を深め表現力を高めてくれるもの
作品制作のインスピレーションはどこから得ていますか?
映画、ファッションショー、ファッションフィルム。特に過去のファッションフィルムには学ぶことが多く、10〜20年前の映像表現から今後どう発展していくのかを考えたりします。さらにテレビ、CM、Web、タクシーの広告も観ますよ、世の中にある映像は全て観たいと思って生活しています。
世の中の出来事が頭に入っていないと引き出しの数が少なくなってくるので、偏らないよう意識しています。「僕はこのジャンルが好きだからこれしかやりません」ってなると、そこから広がらないので。自分の嗜好を分析して反対のジャンルをリサーチしたり、アシスタントとディスカッションすることで引き出しを増やし、どんなお題が来ても「わからない」「できない」と言うことがないように準備しています。
そして、どんなに疲れていても毎日勉強する時間を作ります。映画を観たり、いいと思う映像を集めたり。野球の素振りと一緒で、毎日やらないと上手くならないから。
引き出しを増やし、もっと上手くなるために毎日勉強を続ける
今後の展望や挑戦したいことを聞かせてください
ショートフィルムを作ってみたいです。脚本を書いて自分で撮って、それを世の中に出したらどんな反応が得られるのか興味があります。
また、これまで自分は綺麗なもの、ハイエンドの映像を常に基準として制作してきました。それをベースにもっとアウトロー且つストリートな表現なども別の形でアプローチできるのではないかなと思っているんです。
流行りがあるからそっちに行くのではなく、今までの自分の感覚と向き合い高い視点から拡げていくような感じです。
様々なジャンルにチャレンジしていきたい
動画制作を仕事にしたいと思っている人達にアドバイスをお願いします
仕事として映像制作を捉えた時に、好きなことだけでは成立しないことがほとんどです。そんな時、5年後、10年後、あるいは20年後の自分を見据えたスタンスで仕事と向き合って欲しいと思います。
小規模でいいから、好きなことだけで稼いで生きていきたいと思うかもしれません。しかし、キャリアを重ねるごとに携わる案件の規模感がだんだん大きくなり、相応の責任が伴うようになっていきます。そうなった時に、好きなことしかできないというスタンスでは誰も信頼してくれません。
背負う部分が大きければ大きいほど責任感が生まれるし、そこに対して真摯に向き合うことができるはずです。壁に直面した時に、自分がどういう行動を取るかが分かれ道になるでしょう。
将来の自分を見据えたスタンスで仕事と向き合って欲しい
山口さんが教える「現場で使えるクイック&ハイクオリティな色調整」のチュートリアルで、Premiere Proで色調整を試してみよう。