短編映画「SUNA」制作に見る、加藤シゲアキの挑戦と哲学<Adobe MAX Japan 2025セッション>
2025年2月13日、東京ビッグサイトで開催されたAdobe MAX Japan 2025。
映像制作系のセッションも多数行われ、大きな注目を集めたのは、加藤シゲアキ氏のセッションです。アイドルグループ「NEWS」のメンバーとして活躍し、2012年には『ピンクとグレー』で作家デビュー。2021年には『オルタネート』で吉川英治文学新人賞、高校生直木賞を受賞。同作と続く『なれのはて』は2作連続で直木賞候補にもなり話題を呼びました。セッションでは加藤氏が監督・脚本・主演を務められた短編映画『SUNA』(2025年5月9日公開)の撮影秘話を存分に語っていただきました。また、小説家、プロデュース、楽曲、そして映像制作まで、ご自身のこれまでのクリエイティブ活動とAdobe Creative Cloudの関わりなどもお話しいただきました。
幼少期に興味があったことや得意だったことはなんですか?
子供の頃、将来の夢が発明家でした。キテレツ大百科を見て発明家になりたいって思ったのがきっかけで、その頃からキテレツ大百科に出てくるものを自分で段ボールで作ったりしてました。何か好きな事は色々と作らずにはいられない性分だったんだなと振り返ってみれば思います。好きな授業もやっぱり図工が大好きでした。
5歳の時に描いた絵本「きのみの本」は1つの木にいろんな木の実がなるっていうお話で、当時1つの木になぜ1種類の実しか実らないんだろうというのが、多分子供の時に不思議に思ったんでしょうね。
そしてコロナ禍に、チャリティーの一環で何かみんなでやろうとなった時に、『絵本を書いて読み聞かせしてくれないか?』という依頼があったのでこの5歳の時に描いた絵本をもとに『ふしぎなきのみ』を作ってみました。「きのみの本」を改めて読んで面白いアイディアだなぁと思ったのと、絵本って小説とは全く違うアプローチで作った方が面白いと思っていたので、子供の創作の刺激になり、子供が読んでいて楽しくなることを考えて作りました。
そしてコロナ禍にこの絵本を作ってるときにもっとクリエイティブに作りたいんだけど、当時僕がアプリの扱いをわかっていないのもあって、ちゃんと使ってみたいなと思ったのがAdobe Creative Cloudを購入したきっかけだったと思います。
ライブの演出などにも携わっていらっしゃるんですよね?
ライブ中に映像で楽しんでもらう部分があるので、映像のアイディア出しや映像作家の仲間たちに依頼したり、プロデューサー的なことも担っています。またライブ中、モニターに映し出す歌詞のテロップであったり、グラフィックについても制作に携わることもあります。その指示を出す上でも、単にかっこいい!とか、おしゃれに!って言っても(漠然としていて)実際に手を動かす方が困ってしまうので、もっと明確な指示を出したいと思ったのもAdobe Creative Cloudを購入した理由ですね。文字の級数の指示やフォントのデザインの指定ができることが重要なのではないかなと思っています。
料理や映像作品、そして音楽でも、どうやって出来上がったかにものすごく興味があって、それを知るとクリエイターやアーティストの方とより建設的にディスカッションができるので、僕自身がやっぱりアプリを使ってみないとと思いました。だから逆にサボってる人もすぐわかります(笑)。フリーソフトで作成することもコスト抑える部分で良いですが、よりこだわりをもつことで次のステップを踏めるので僕はものづくりする上では、指示を出す側にしても、ある程度アプリの知識やクリエイティブを知る状態にしておくことは大事なのではないかなと思っています。
ご自身でCreataive Cloudを購入したとのことですが、よく使用するソフトを教えてください
最初は映像作品を作る機会も増えてきそうだなと思ったので、まずはAdobe Premiere Proを触ってみました。普段は写真をやるのでAdobe Lightroomを使うのがメインですね。あとはこれからですけどAdobe Illustratorも覚えなきゃと思っています。企画書を作ることがあるのですけど、やっぱりかっこいい企画書の方が企画は通るんですよね。それを最初に思ったのが、昨年のAdobe MAXでも登壇されていたOSRINさんの企画書でした。僕の2冊の小説のプロモーションビデオをお願いしたのですが、その時の企画書がカッコよくて、これ、パワポじゃ作れないなと思い、自分でもそういうものを作るためにIllustratorも覚えなきゃと思っています。
Lightroomも使用されるとのことですが写真のこだわりは?
先日、音楽イベントのオーガナイザーみたいなことをやらせていただき、ライブのスチールを撮りました。全てAdobe Lightroom Classicで現像しています。
写真は長いことやっているのですが、ライブのスチールを撮るのは初めてですごく楽しい経験でした。普段僕の場合は何か作品作りというよりかは、趣味でスナップ写真などを撮影するのでフィルムが多いのですが、ライブスチールはデジタルがいいなと思いました。
デジタルを使用してみて感じたのはカメラの性能が本当にすごいのと、Adobe Lightroomの現像も簡単になっていますね。ただ普段フィルムで撮影していることもあり、やっぱりそのフィルムっぽさが好きなので、現像後に基本全て粒子感は足しています。つい細かくそっちに寄せていきますね。色味の調整に関しては、元からLightroomに入っているLUT(Look up Table)で色も簡単にカッコよくすることもありなのですが、なんかプライドというか、LUTをそのまま使うのはいけない!みたいな気がして(笑)、色味やコントラストの調整などもマニュアルでしています。それこそこういうことをやっていると、映画「SUNA」のカラーグレーディング時も、もっとグリーンぽい感じで、とか指示出しもしやすくなったので、こういう作業も損はないですね。
普段どのような場所で作業していますか?
この写真は僕の作業部屋です。これでもだいぶ整理しました(笑)。なかなか時間はないですが、本や写真集からのアイディアの影響は非常にあるので、常に本は読んでいますね。
この時はたまたま海の近くを通った時に車窓から撮影した画像を、Adobe Lightroom のAI機能でどこまで消せるのか?を実験していました。どのくらい消えるんだろうと思っていたら、めちゃくちゃ綺麗に消えてビックリしました。
キーボードもあって、作曲もしますし、基本はここでなんでもやります。企画書とか脚本制作とかは移動中でもやりますけど、特に小説はここで書きます。
小説って自分と対話する時間なので人の気配があると僕は進まないタイプです。小説のアイディアは不思議なのですが、作ってるとどんどん湧いてくるんですね。
何も考えない時間だとやっぱり何も生まれないし、仕事が落ち着いているとあまりアイディアもぱっと浮かばなくて。書いている時間ってフルマラソンみたいな感じで楽しいこともあるけど結構苦しいし長い。そういう時に、今書いてる作品には使えないけどこれ終わったらあれ書きたい、これ書きたいみたいな現実逃避してます。
短編映画「SUNA」を制作するに至った経緯を教えてください
作家生活10周年の時に「渋谷と1と0と」というショートフィルム作品を作ったので、この「SUNA」がフィルムとしては2作目になります。「渋谷と1と0と」を作成した時にいろいろな課題が出て、次やるときには多方面的にものづくりすることを考えようと考えていました。
そして、今回愛知県の東海市で映画を作るプロジェクトを実施するということでミラーライアーフィルムズのプロデューサーからお声がけ頂きました。ただし、すぐにオッケーしたわけではなくて、僕自身も映画が好きだったので中途半端なものは作りたくないし、ほんとに自分が作れるのか自信が持てなかったので、すごく悩みました。ただ、本当に多くの方が後押ししてくれたのと、その間に「SUNA」っていうアイディアが出てきたので、やらせていただくことになりました。
好きなことってやってみたいけど、やるのが怖いというのもあります。また、常に僕は自分が本当にそれをやるべきかっていうのは毎回自問自答しますね。小説でも本当に自分がその作品を書くべきかどうかはすごく考えます。今回ミラーライアーフィルムズは絶対15分っていうのがルールなんですが、通常ショートフィルムだとワンシチュエーションのアートハウスな作品になりやすい。ただ、僕なら15分でエンタメの起承転結をしっかり組み込めるんじゃないか?と思ったのもあり、やってみようと決めました。2時間のような15分を作る”というのがテーマでした。それが小説を書いてきて物語を作ってきた僕の仕事かなと思ったんです。
「SUNA」の脚本作成から編集までどのように進められたのですか?
まずはシナリオハンティングという、シナリオを書くための下見を二日間やらせてもらいました。なんとなく砂のホラーって言う構想あったんですけど、まず東海市に砂があるのか、実際にそのテーマで行けるのかどうか?ダメだったら違う話を考えようと思いながら現地に向かいました。実際にいろいろ撮影できそうな場所を見て、それを踏まえて脚本に起こしたのが6月位。8月に脚本を仕上げて10月くらいには撮影チームを従えて、ロケハンしながらこんなふうに撮影しようとか、カット割もある程度この段階で決めました。そして実際の撮影は12月に3日間でしたね。
撮影しながら現場で粗編集をしたんですが、撮り終わったときに15分6秒だったので、これは15分に収まるなと思いました。映画の脚本は1ページ1分みたいなルールがあるんですよね、ちょっとバッファを持たせたかったんですが15ページジャストだった気がします。結果的にはルールに則ったら無理なくできたって言う感じでしたね。
監督と俳優を兼任することについてはいかがでしたか?
芝居とかちょっとしたトラブルの時は助監督がカットをかけてくれます。でも細かい指示は全て自分がしました。レンズの画角も短くしてほしいとか、照明とかももちろん細かいことをいっぱいあります。そういう時も写真やっててよかったと思いましたね。エキストラも沢山いたりするので、お芝居をつけながら見ていくし、自分がNGなんか出した時も、すいませんとか謝りながら、自分がカットかけてましたね(笑)難しかったのは、役者モードで台本を読むと「誰だよこれ書いたの?」覚えられないセリフだなぁって僕自身が言いながら直したりしてました。
「SUNA」の編集はどのように行われたのですか?
編集ってその監督の個性が出る部分なので僕自身も編集が好きで、最初は自分で編集もやろうかと考えていたくらいでした(笑)ただ、今回は時間的にも限られていたので僕の右手になってくれるような方に編集をお願いしました。最初は彼と感覚も違うところもありましたが、次第に感覚がつながってきました。なので、撮影してる間にどんどん現場で編集してくれたんです。ランチしながら編集したものを見てここはつまみましょう、という風に、現場で全体のトーンを作りながらやれたんですよね。インサートもあとどれくらい撮るか通常は迷うのですが、このやり方だとすごく現場での効率も良かったです。編集でどこに話の山を作るか、などのタイミングは、すでに脚本の段階で考えていました。このシーンのスピードを上げてからすっと抜く、などの考え方は、音楽を作る感じにも似ていて、日頃やっている考え方なのでそれを踏襲して編集しました。
「SUNA」の見どころを教えてください
砂をめぐる事件と怪奇現象みたいなのを楽しんでもらえるようなエンタメ作品として作ったのでぜひ楽しんでもらえたら嬉しいです。また、ミラーライアーフィルムズ Season7は5作品上映されるので他の作品もみながら短編映画の自由度や面白さというものもぜひ体感していただきたいなと思います。
最後に新しいクリエイティブに挑戦したい方へメッセージをお願いします
いまはチャレンジしやすい時代。でも誰でもチャレンジできるので、どうやって自分のクオリティーや個性を磨くかが課題。それを発見できればきっとお仕事につながっていくと思います。まずは何より、チャレンジしないと始まらないので、楽しんでものづくりしてもらえればと思います。