心を動かそう〜ハンドメイドとデジタルで作るコマ撮りの秘訣<Adobe MAX Japan 2025セッション>

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NHKのキャラクター「どーもくん」や「こま撮りえいが こまねこ」など、コマ撮りの人形アニメーション作家として知られる合田 経郎氏がAdobe MAXでセッションを行いました。親しみ深く愛おしい表情を見せるキャラクターたちと、コマ撮りならではの感情豊かな動きにこれまで多くのファンや子供たちが魅了されてきました。

今回はコマ撮り制作の世界に入ったきっかけから、「どーもくん」誕生までのエピソードや「こまねこ」最新作のお話、そしてどのようにアドビ製品を活用されているのか?など、制作の裏側までをじっくりとお聞きしました。

コマ撮りのクリエイターになるまでの経緯を教えてください

最初にクリエイターとしての目覚めみたいなものがあるとしたら小学校の時ですね。担任の先生をキャラクターにした漫画を描いたらクラスメートがとてもウケていて、それを見たときに何か胸が高なりました。もしかして自分は特別な何かなんじゃないのかな?みたいな、そんなトキメキがありました。今思えばこれが最初の目覚めだったんじゃないかなって思います。

それでいい気になって漫画家になろうと思い、道具をいろいろ揃えて漫画を描いてみたんです。自分は特別な何かなんじゃないかと思ってますので、いけるんじゃないかと描き始めました。ただ、ストーリーができたり漫画のキャラクターを書いたりするのは楽しかったのですが、背景とかを描くのは面倒くさい。自分のイメージと技術の差がありすぎたのもあるかもしれないですが、割とあっという間に漫画家になるのは簡単に諦めました(笑)。

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次に高校2年生の時、先輩に声をかけられ先輩の作るコマ撮り映画のカメラマンとして参加しました。今思えばこれがコマ撮りの初体験で、夏休み全部を使ってコマ撮り映画を作りました。でも人形が数日で壊れてしまい、撮った映像もほとんどピントが合ってなくて…。5分位の映画になる予定だったのが30秒位のものになってしまい、出来は散々なものでした。

でもちょっとそこで気づきがありました。書くのは面倒くさいけれど、そこにある物を撮ればいけるかも?ということです。それで映画の学校に行ったんですが、そこには年間200本、300本と映画を見るような強者たちが集まっていた中で、自分は年間5本程度しか見ていなかったので非常に劣等感を感じて、自分は映画に関わるべきではないと思いました。映画は無理、とこれも割とすぐ諦めましたが、CM(コマーシャル)ならできるかも!と思いCMの世界に入りました。

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「どーもくん」はどのようにして誕生したのですか?

同僚のプロデューサーから声をかけられ、NHK 衛星放送のキャラクターを作ってみないかというお誘いを受けました。小学校以来キャラクターなどを作ったことがなかったので、最初はどう書いていいかよくわからなかったんです。それでも白い紙に目を2つだけ書いて、「このキャラクターは気体なので形はありません。」なんてことを書いたりして、ダメに決まってるでしょ!って怒られたりしてたんです(笑)。

どう考えたら良いかわからなくて、夜中に○を書いたりとか△を書いたりとか⬜︎を書いたりとか、もうただ手だけを動かしているという感じでした。そういう中で夜中の3時くらいにポロっとこんな形が出てきた。

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そうしたら急に頭の中で、そのものの生活ぶりが湧いてきて、これで行くしかないと思って企画書したためて見て頂いたところ、なぜか採用となったのがこれでした。それが「どーもくん」ですね。

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©️NHK・dwarf

今日は最初に提出した企画書の1部を見て頂こうと思います。多くのクリエイターの方に勇気を与えるものだと思うんですけどもこんな感じでした。これで採用です(笑)。

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©️NHK・dwarf

企画書の案を具現化するにあたり、最初プロデューサーは2Dアニメーションがいいんじゃないかって言ってたんですね。でも自分も冷静な面もあり、この絵がただ2Dで動いてもダメだろうと思い、何か立体でやりたいということでCGとかの技法も考えたりした結果、コマ撮りを選んだのです。この企画書でラフを書いた時は、まだコマ撮りをやろうっていうことまでは結びついていませんでした。きっと高校生の時の苦い経験があったからかな?と思っているんですけども、あるアニメーターのコマ撮り作品があって、それがすごく良かったんです。それでやっぱりコマ撮りをやろうと決めました。

最初のコマ撮り撮影の時はどんな気持ちでしたか?

最初のどーもくんの撮影で自分が書いた絵が色々な技術者の方によってセットができて、人形が動き出したとき、凄く心臓がドキドキしました。スタジオ中に自分の心臓の音が聞こえてるんじゃないかと思うくらいにドキドキしました。そこでコマ撮りをもっと知りたい、もっとやりたいと思うようになって、現在に至ります。

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コマ撮りのスタジオ『dwarf studios』はどのようなきっかけで設立したのでしょうか?

「どーもくん」を通じて自分のことも知って頂けたこともあり、コマ撮りやりたいんだけどいろいろな事情で諦めてしまった方たちに会うようになりました。自分はとてもラッキーなことに仕事の現場で好きなものに出会えたのですが、やりたいなと思っても出来ない人がいるんだということに気づきました。そこで作りたい人が作れる場所を作ろうと思い、2003年にdwarfっていうスタジオを作りました。最初はほんとに1人だけだったんですが、今は仲間がじわじわ集まって、25人ぐらいのスタジオになっています。他のアニメーションなども作っていますが、基本的にはコマ撮りがメインです。そこはやはり自分が一番興味あることだし、得意技みたいなところもあるので。コマ撮りは、単に人形が動いているということではなく、人形も感情を持っていて、その感情が見ている人に伝わった時に、初めてキャラクターが生きているっていうことなのかなと思っています。

コマ撮り制作について教えてください。

まず自分の役目としては、ストーリーを考えるのと全体の監督をすること、そしてキャラクターデザインがあります。キャラクターデザインは色々なスケッチを描きます。割と自分の場合は紙に鉛筆で書くのが一番自由になれる感じはありますが、スタッフの皆と共有するために僕はAdobe Photoshopを使っています。部屋や小道具、衣装などを書いたりしますし、みんなと共有するために色や質感を考えるっていうのが、自分とってもPhotoshopのとても大事な使い方です。実はパソコンはあまり得意でないんですけど、Photoshopは、自分にとって大事な筆記用具の1つ、という感じになってます。

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また、実写映画の場合はたくさん映像を撮って、良いところを編集して作っていくことが多いと思いますが、アニメーションは撮影する前にこのカットを何秒で撮るかを事前に決めるのが一般的ですね。事前にコマごとに秒数を書いておいたりして、絵コンテの段階ではもうある程度編集ができている感じです。撮ってから多少変わったりすることもあるんですけども、基本的には絵コンテに書いてある秒数しか撮らないですね。

この絵コンテが設計図になって、各パートのスタッフの方々がそれぞれのパートで何をすべきかを考えて、みんなで作っていきます。

それでコマ撮りは大体、朝から夕方まで撮影して1日撮れるのが5秒くらいっていうのが我々の世界です。

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11年ぶりの新作となる、こま撮り映画 「こまねこのかいがいりょこう」について

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©️TYO /dwarf・こまねこフィルムパートナーズ

こまねこは、2003年に「こまねこ はじめのいっぽ」という5分の短編を作ったところから始まり、その後劇場用をはじめ様々な作品を作り続けていました。2024年が20周年だったので20周年作品を作ろうということで「こまねこのかいがいりょこう」を作りました。これは8分くらいの作品なんですけど、過去の作品たちと合わせて50分くらいの劇場作品として、昨年から映画館で公開しています。

今回の作品が20周年作品ということで成長をテーマに考えてみたんですけど、自分のキャラクターにすごく成長してほしいなぁという思いと、成長しないでずっと変わらないでいて欲しいなぁという思いと両方ありました。

海外旅行というテーマについては、ちょうどストーリーを考えたときにウクライナ侵攻がありまして、母親と子供だけが国外に避難する映像をみました。母親は大きなリュックを背負いながら片手はスーツケースを持って、もう一つの片手には子供の手を握っている。その子供もリュックを背負って、片方の手でぬいぐるみをぎゅっと持ってたんですね。その子にとってこのぬいぐるみっていうのは、どういう存在なんだろうか?着るもの食べるものにも匹敵する、もしくはそれ以上の何か命綱のような存在なんじゃないかな?と思いました。日々人形に関わるものとして、その映像が胸に刺さりまして、その子が出かける時、ぬいぐるみをつかんだときの心境っていうのはどういうものだったんだろうか?なんてことを考えて、そんなところから着想して海外旅行という話を考えました。

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©️TYO /dwarf・こまねこフィルムパートナーズ

Adobe Premiere Proを使用されているとのことですが、どのように使用していますか?

Premiere Proの使い方としては先ほど紹介した絵コンテをPremiere Proのタイムラインに並べてビデオコンテを作ります。これでカットの長さや全体のリズム感とかを検証しますが、秒数を変えて、また絵コンテに戻って書き直すこともあります。次に実際に撮影した素材をこのビデオコンテの上に載せていきます。ここで動きを確認や編集の確認をやっていく感じです。

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©️TYO /dwarf・こまねこフィルムパートナーズ

人形を動かすのはアニメーターという人ですが、撮影する前に絵コンテを見てみてもらって、お互いにカットのイメージを確認しあっています。それは実写映画でいう監督と俳優さんみたいな感じで、確認しあってから撮影準備をすることが結構大切です。でも監督が欲張りなので(w)、絵コンテ通りに撮影してあればそれでいいのですが、もしできるならば、思った以上のものが上がって欲しいと思ってしまう。だから、絵コンテにもあまり書き込みすぎないで、アニメーターの方の創意も自由も入るようにして、よりいい感じの演技が撮れるようにって思ってます。

エンドクレジットの手書き素材も工夫されているそうですね。

エンドクレジットで使うスタッフの名前は、自分が手書きで書いています。自分はもうゴシック体で良いと思うんですけど、プロデューサーなどがいやいや手書きの方が心がこもってますよっていうので、手書きの文字を書くんです。緊張しすぎても気が抜けすぎてもよく書けないので、こういう作業は喫茶店でやるのがいちばん良いなって思ってまして、実はこれは、iPadとAdobe Frescoで書いたりしてます。

概略図 AI によって生成されたコンテンツは間違っている可能性があります。

©️TYO /dwarf・こまねこフィルムパートナーズ

合田さんが考える、こま撮りの表現で重要なこととはなんですか?

やっぱりストーリーが必要でその中に入り込むからこそ、やっとその感情が見えてくると思うのでストーリーが必要だということ。さらにライティングだったり、アングルみたいなことも、とても感情を表す大事なものなので、アニメーションだけじゃなくて全体で感情を作ってくっていうのが重要だなと感じます。

これからコマ撮りをやりたい人へのアドバイスをお願いします

なぜかコマ撮りだけが「なんでコマ撮りなの?」と聞かれるんですよ。2Dのアニメーションはなんで2Dなのとは聞かれないしCGのアニメーションもなんでCGなのと聞かれない。

自分の答えは作っていて面白いからなんです。面白いことをやっています、というのが答えです。

冒頭で紹介した生い立ちから皆さんがなにを教訓に得るのかはわかりませんが、自分にとって大事だったのはコマ撮り撮影に誘ってくれた先輩と、キャラクターデザインをやってみませんかと言ってくれた同僚のプロデューサーです。その二人がいなかったら今の自分はないと思います。案外自分の魅力ややれることって人が見つけてくれることが多々あるので、もし興味のあることがあったら興味のある世界に飛び込んでみるっていうがいいんじゃないかな、人に会ってみるというのはいいのではないかと思っています。

そういうことをしていると小学生の時に諦めた漫画の連載をなぜか現在していて不思議なものだな、と感じます。

色々飛び込んで色んな人に会って色んなものを見せるということがシンプルだけど大事なんではないかな、と思います。