自身の手書き文字をもとに温もりある文字に仕上げたtakumiフォント|Adobe Fontsパートナー紹介15
文字に豊かな表現力を与えるフォントは、クリエイティブには欠かせない道具のひとつです。アドビが展開する「Adobe Fonts」は、グラフィックデザインやweb、映像といったさまざまなフィールドでフォントを自由に使えるクラウドサービスで、2025年5月現在、30,000以上のフォントが提供されています。
この記事では、Adobe Fontsに参加する200を超えるフォントメーカーやタイプデザイナーから、ひとつのパートナーをピックアップ。歴史や特徴、Adobe Fontsで利用可能なフォントを紹介していきます。
アニメをきっかけに文字の世界にのめり込む
今回紹介するのは、自らの手書き文字をベースに、親しみやすさと読みやすさを両立した、温もりあふれるフォントを作り続けるタイプデザイナー・takumiさんです。
takumiさんが文字、書体に興味を持ったのは中学生の頃。
当時、見ていたアニメのオープニングやエンディングで、歌詞やスタッフロールに使われている文字のかたちを気に留めたことがきっかけでした。それまで、Windows OSに搭載されていたフォント以外、意識することもなかったtakumiさんにとって、そこにあるのは未知の文字。ネットを頼りに情報収集するなかで、世の中にはいくつものフォントメーカーがあり、フォントにも多様なデザインがあることに気づきます。
以降、急速に文字、書体の世界へとのめり込んでいき、気になる書体を見かけるたびに画像を収集。スクラップブックのようにコレクションするようになりました。
takumiさんが文字に目覚めるきっかけとなったアニメテロップの再現イメージ(左:ダイナコムウェア・綜藝体、太丸ゴシック体/右:写研・ナカフリー B)
高校進学後は、文字を見る/調べる/集めるだけではなく、パッケージフォントも購入するようになるなど、書体への興味は衰えるばかりか、さらに強いものになっていきます。
卒業後の進路を考えるにあたっては、これまで培ってきた書体の知識を実践で活かすために芸術系大学への進学を決意。Adobe Photoshop、Adobe Illustratorの使いかたとともに、デザインの学びを深めていきました。
文字、フォントに興味を持って以降、買い集めたフォントパッケージ
もともと“文字を書く”、その行為自体が好きだったというtakumiさんは、大学2年生のとき、自らの手書き文字をベースとしたフォント制作を始めます。
自分でもフォントをつくってみたい/自分の手書き文字をフォントとして残したい/そのフォントが使われているところが見てみたい……その理由はさまざまでしたが、巷にあふれる書体に目を向けたとき、“スクリーン上でも読みやすい手書き風フォントがない”と感じていたことも、フォントをつくる大きな動機でした。
takumiさんの制作環境
手書き風フォント制作にあたっては、中学時代に絵を描くために購入したものの、使わずじまいになっていたペンタブレットを再び引っ張り出し、書いた文字をCanonの外字作成ソフト「TypeCraft」を使ってフォントファイルを作成。
完成した最初の「takumi書痙フォント」は、かなと英数字、一部の記号、小学一年生で習う漢字・80字を搭載したコンパクトなものでしたが、公開・配布を始めてまもなく、実際に使用した感想や使用例が寄せられるようになりました。
予想を超える反響があったことを受け、takumiさんは字種の拡張を決断し、より高品質なフォント制作環境を求めて、フォント制作ツールを武蔵システム「TTEdit」へと移行します。
字種を拡張する過程では初期に制作した文字のリデザイン、画数の多い文字と少ない文字が違和感なく並ぶようにするための黒み調整など、フォントとしての完成度を高める処理を重ねていきました。
フォント制作初期に使用していた「Canon TypeCraft」(左)。その後、武蔵システムの「TTEdit」に移行し、同社の「手書きフォントメーカー」と組み合わせてフォントを制作している
最初の「takumi書痙フォント」リリースからおよそ2年半後、かな、英数字、記号類、第一・第二水準漢字、NEC特殊文字、IBM拡張文字、およそ7000字を収録した「takumi書痙フォント」がついに完成します。
takumiさんらしさを残しつつも、フォントとしての汎用性も備えたデザインからは、これまで文字と向き合い続けてきたtakumiさんの情熱、感性、そして“文字を視る目”を感じとることができるでしょう。
TK-takumi書痙フォント https://fonts.adobe.com/fonts/tk-takumi-shokei-font
takumiさんはその後もフォント制作を続け、「takumi書痙フォント」よりもゆるいイメージのマル文字書体「takumiゆとりフォント」をリリースします。
この書体は「かわいい」「おもしろい」と評される一方で、「クセが強い」「読みにくい」という指摘もあったため、後年、この反省点を踏まえて可読性を高めた「takumiゆるりフォント」を制作しました。
TK-takumiゆとりフォント-標準 https://fonts.adobe.com/fonts/tk-takumi-yutori-font-normal
TK-takumiゆとりフォント-ミニ https://fonts.adobe.com/fonts/tk-takumi-yutori-font-mini
TK-takumiゆるりフォント-標準 https://fonts.adobe.com/fonts/tk-takumi-yururi-font-normal
TK-takumiゆるりフォント-ミニ https://fonts.adobe.com/fonts/tk-takumi-yururi-font-mini
2025年5月現在、takumiさんの最新フォントは「takumiお気楽マーカー体」。この書体は言わば「takumi書痙フォント」のリメイク版とも言えるものですが、文字を描くツールはペンタブレットからスマホ+スタイラスペンと大きな変化を遂げています。
takumiさんがこの書体で目指していたのは、“マーカーでさらさら書いたような文字”でしたが、それまで使用していたペンタブレットではどれほど試しても、思い描いた通りの線を描くことはできませんでした。
しかしあるとき、イラストレーターさんがセルシスのペイントアプリ「CLIP STUDIO PAINT」を使って文字を書いているのを目にします。
“これなら理想の文字が描けるかもしれない”と、スマホにインストールした「CLIP STUDIO PAINT」で試してみると、その感触は想像以上。一時、頓挫していた「takumi書痙フォント」のリメイクは、「CLIP STUDIO PAINT」との出会いによって、再び加速していくことになります。
スマホ上の「CLIP STUDIO PAINT」で文字を描く様子
こうして、スマホで一文字ずつ文字を描き、PCの「TTEdit」でフォントにする……そうして完成したのが、この「takumiお気楽マーカー体」です。
これまでの書体に比べて、なめらかな曲線で構成された文字には、ほどよく力の抜けた心地よさがあり、どんなデザインにもフィットする高い汎用性を備えた手書き書体に仕上がっていると言えるでしょう。
TK-takumiお気楽マーカー体 https://fonts.adobe.com/fonts/tk-takumi-okiraku-markertai
takumiさんがこれまで制作したフォントは、BOOTHで購入できるほか(ページ下部参照)、Adobe Fontsでもその一部が利用できるようになっています。
デザインにやさしさ、親しみやすさ、かわいらしさ、素朴さがほしいとき。Adobe Fontsでtakumiフォントを検索してみましょう。求めるイメージに合う文字がきっと見つかるはずです。
https://fonts.adobe.com/designers/takumi
Adobe Fontsで使えるtakumiフォント
2025年5月現在、Adobe Fontsで使えるtakumiフォントは18種類。
すべてのフォントに等幅フォントとプロポーショナルフォントがあり、18種類×2バージョン(等幅・プロポーショナル)=合計36のtakumiフォントが提供されています。
- TK-takumi書痙フォント(4ウェイト)
- TK-takumiゆとりフォント-標準(1ウェイト)
- TK-takumiゆとりフォント-ミニ(1ウェイト)
- TK-takumiゆるりフォント-標準(4ウェイト)
- TK-takumiゆるりフォント-ミニ(4ウェイト)
- TK-takumiお気楽マーカー体(4ウェイト)
プロポーショナルフォントを利用すれば、Adobe Illustrator、Adobe InDesignのような高度な組版機能をもたないアプリケーションでも、文字をきれいに並べることができます。
プロポーショナルフォントで組まれた文字が、本当の手書きのように自然に見えるのは、takumiさんが文字から記号に至るまで一文字単位で文字幅を調整しているからこそ。その文字のひとつひとつに、長年にわたり、書体を見つめてきたからこそわかる、繊細な感覚が宿っています。
Microsoft Wordでの等幅フォントとプロポーショナルフォントの比較。英数字は等幅とプロポーショナルで個別にデザインされている
Adobe Fontsのフォントをアドビアプリ以外で使うには、Creative CloudのデスクトップアプリケーションにあるAdobe Fonts/追加したフォントから「ファミリーをインストール」を選択
やさしい手書きのプロポーショナルフォントパック
Adobe Fontsで使用可能な多くのフォントのなかから、イメージや目的にあわせて厳選して提供する「フォントパック」に、「やさしい手書きのプロポーショナルフォントパック」が追加されました。
一文字単位で文字幅が調整されたプロポーショナルフォントだけを集めているので、ビジネスアプリを含む、あらゆる環境できれいな手書き文字をデザインに活かすことができます。
- TK-takumi書痙フォント(4ウェイト)
- TK-takumiお気楽マーカー体(4ウェイト)
- TK-takumiゆとりフォント-標準(1ウェイト)
- TK-takumiゆとりフォント-ミニ(1ウェイト)
- TK-takumiゆるりフォント-標準(4ウェイト)
- TK-takumiゆるりフォント-ミニ(4ウェイト)
takumi
web|https://slimedaisuki.com/
BOOTH|https://slimedaisuki.booth.pm/
Adobe Fonts提供書体以外のフォントはBOOTHで購入可能
BOOTH|https://slimedaisuki.booth.pm/