カラーマネジメントはPremiere Proに何をもたらすか?〜使用例編〜
Adobe Premiere Proの新機能 カラーマネジメントは、どのような場面で有効的なのでしょうか?
ここではカラーマネジメントの使用例を2つ紹介します。
<使用例1>Log/広色域の素材を使ったコンテンツ制作
現在の映像コンテンツ制作では、Logや広色域で撮影した素材を使ったワークフローが主流となっています。この制作過程において、カラーマネジメントの機能がどのように活用できるかを見てみましょう。
色域とダイナミックス比較
そのまえにLog/広色域素材の素材においてカラーマネジメントを利用する以前の課題についてご説明します。
これまで多くのクリエイターがLog/広色域で撮影した素材の制作ワークフローでは、いくつかの課題がありました。
<課題1>広色域/ダイナミックスが持つ「カメラで収録した本来の表現」を活かせなかった。
カラーマネージメントが搭載される前のワークフローでは、Logと広色域で撮影された素材は編集時にLUTを使用していました。ただ、LUTにもよりますが、Rec.709のLUTを使用する場合は、色域の範囲で収録した素材と似たような表現しかできず、本来の収録素材が持っている広色域/ダイナミックスを表現できない状態になっています。そこでまず最初の工程として、広色域/ダイナミックスを取り戻すという作業工程が必要になります。しかし、手動で収録素材本来の広色域/ダイナミックスに戻すことは困難です。通常のモニターで見ている映像=Rec.709の色域では、必要な広色域/ダイナミックスがなく、不可能でした。
本来カメラが捉えていたデータ量が豊富な「表現」を再現することはこれまで困難でした。カメラメーカーの純正LUTを使う手もありますが、それはあくまでRec.709の色域の中で、色域やダイナミクスを「簡易的に再現」するための、「制限のある状態」でした。
<課題2>できあがるコンテンツはほぼRec.709出力しかできなかった。
これまでの制作工程では、制作するものの出力はほとんどがRec.709に限られていました。納品先からの要求も、Rec.709出力がほとんどでした。これは世の中にある映像モニターが、ほぼRec.709という単一のカラースペースにしか対応できなかったためです。
しかし、状況はかわってきました。広い色域が表現できるモニターデバイスが出回り始めています。スマートフォンやタブレット端末がその代表例で、一般の視聴者もTVモニターで視聴するだけでなく、今や多くの人々が、スマートフォン/タブレット端末で映像視聴する時間が多くなりました。
こうした時代の移り変わりにおいて、今後、Rec.709というこれまでのTVモニター視聴が前提だった映像制作も、より広色域/ダイナミックスを持った映像制作へと幅が広がってきています。
これらの背景により、今後SDR=Rec.709ベースの映像制作から、より広い色域を意識した映像制作が求められる中で、このPremiere Proの「カラーマネジメントシステム」の搭載がそのニーズに応えられる制作ワークフローを実現するのです。
カラーマネジメントで変わる、制作工程とは?
では具体的に、Premiere Proの新しい「カラーマネジメントシステム」を利用してできることをご紹介します。
<できること1>タイムラインに配置された広色域/ダイナミックス形式の素材は、一旦ACEScctという広いカラースペースで適切に展開することができる。
入力用カラースペースによる解釈
★ACES cctについては、第6回で詳しく説明します。
<できること2> 編集で利用されるタイトルや静止画(Rec.709 / sRGB)などの、異なるカラースペースの素材たちと混在して編集できる。
<できること3> 編集結果をSDR、HDRのいずれかのカラースペースで書き出すことができる。
カラーマネジメントを導入することによって次のことが適切に、しかもほぼ自動的に行われます。
・Log/広色域の素材の「本来の表現」が使用でき、それを元にRec.709に落とし込める。
・編集したコンテンツをSDR /HDRのいずれの内容でも書き出せる。
といったことが可能になります。
これによって、Log/広色域の素材を使った制作においても正確かつ豊かな編集ができるのです。
<使用例2>SDR素材とHDR素材を組み合わせたコンテンツの作成
次にHDR(ハイダイナミックレンジ)素材の制作過程ではどうでしょう?
HDRは、現在YouTubeでも利用できるようになり、スマートフォンなどのデバイスでもHDRモードが搭載されるなど、次世代の映像規格として標準化しつつあります。
そのまえにHDR制作においてカラーマネジメントを利用する以前の課題を以下にあげます
<課題1>構成される映像素材が、HDRとして撮影された素材だけではない場合、従来のSDRなどは、異なるカラースペースとして混在することとなり、意図した色や明るさと異なって表示される。
<課題2>SDRとの混在の場合、SDRのパートが暗く感じ違和感がある。
<課題3>上記2つの理由からタイトルや静止画の表示にも違和感が出ます。
<課題4>仕上げにおいて書き出されるコンテンツは、SDR / HDRのどちらかで作成した場合、基本的にそのどちらかの形式でしか出力できない。
これらのことが、実は「カラーマネジメントシステム」の搭載によって変わります。
カラーマネジメントでできること
では、SDRとHDRの撮影素材が混在した場合などで、実際にカラーマネジメント機能を利用すると何ができるのでしょうか?
<できること1>タイムラインに配置された各種素材は、作業用カラースペースに適切な展開がされる。
<できること2> 「SDR」素材は、ピークホワイト203nitというルールが適用されブーストアップされる。これはタイトルなども該当する。
(図 色域の混在とブーストアップ)
<できること3> 編集で利用されるタイトルや静止画(Rec.709 / sRGB)などの異なるカラースペースの素材たちと混在することができる
<できること4> 編集結果をSDR、HDRのいずれかのカラースペースで書き出す。
このようにカラーマネジメントを導入することによって次のことができます。
・SDRパート/HDRパートで正確な色表示
・SDRとHDRを違和感が少なく混在して表示
・1つの編集でSDR / HDRの出力
まとめ
このようにPremiere Proはカラーマネジメントの機能を搭載することで、既存の制作環境を、より適切なカラースペースで展開して、より正確な色表現で制作することができるようになります。それは、さらに新しい可能性を広げることになるでしょう。
txt:高信行秀 構成:石川幸宏 撮影:マリモレコーズ 撮影協力:TSUKUBA BREWERY(つくばブルワリー)