第3回 カラーマネジメントはPremiere Proに何をもたらすか? 〜よくある質問〜
具体的にPremiere Proでカラーマネジメントを活用していくと、人によってはこれまで聞きなれない専門的なメニューが出てきます。ここでは主に、カラーマネジメントのメニュー構成や設定方法と、主な専門用語について、FAQ方式で解説していきましょう。
Q:カラーマネージメントシステムの基本的な使い方を教えてください
チュートリアルを公開しているのでぜひこちらをご参考ください。
Q:「トーンマップ」や「色域圧縮」は何に使いますか?
カラーマネジメントの設定を見ていると、「トーンマップ」や「色域圧縮」という表示があります。これは何でしょうか?
「トーンマップ」や「色域圧縮」は、カラースペースを大きなものを小さなものに入れる場合に、入るように調整する方法です。
sRGBのカラースペースとRec.2020SDRのカラースペース(白)
使用される工程
これらの機能は、カラーマネジメントにおいて次の箇所で利用されます。
<入力用カラースペース> 作業用カラースペースより、入力用カラースペースが大きな場合
<出力用カラースペース> 作業用カラースペースが出力用カラースペースよりより小大きな合
トーンマッピングとは?
大きなカラースペースを小さなカラースペースに入れる場合、トーンを調整して視覚的にできるだけ近いようにします。この時に使用するのがトーンマッピングです。
画像の階調範囲=明るさの範囲を調整して、HDRダイナミックレンジの画像データを、SDR=通常のダイナミックレンジのディスプレイに表示可能な範囲に変換する処理のことです。
これにより明るすぎたり暗すぎたりする部分を調整してより自然に見えるようにしたり、またクリエイターの思い通りの表現の幅を広げたりする効果があります。
主に明るさのダイナミックスを調整しますが、その際に変化を伴うであろう色に関しての調整を行うことができ、処理の方法にも種類があります。
トーンマップにいくつか処理方法がありますが、絵柄や好みによって、最善の選択は変わります。多くの場合「色相保存」が良い結果となります。
なし
チャンネル別
色相保存
最大RGB
トーンマップの例 なし / チャンネル別 / 色相保存 / 最大RGB
色域圧縮とは?
トーンマッピングとともにカラースペースを小さくする方法で、色域自体を処理する必要がある場合があります。その時の処理方法を選択できます。絵柄や好みによって、最善の選択は変わります。
輝度の維持
彩度の維持
Q:カラーマネジメントの設定はどこにありますか?
カラーマネジメントの設定は複数あります。
メニューバーの「設定」>「カラー」
メニューバーの「シーケンス」>「シーケンス設定」の中の「カラーマネジメント」タブ
メニューバーの「クリップ」>「変更」>「カラー」
各種設定
全ての設定内容は「Lumetriカラー」パネル内の「設定」にまとめられています。
「Lumetriカラー」パネル >「 設定」
Q: カラーマネジメントの種類にいくつかありますが、どれを使えばいいですか?
Premiere Proに用意されたカラーマネジメントの方法にはいくつかの選択肢あり、選択ができます。
- ダイレクト Rec.709(SDR)
- ダイレクト PQ(HDR)
- ダイレクト HLG(HDR)
- 広色域(トーンマップ済)
- 広色域(最小限のトーンマッピング)
- 広色域(トーンマッピングなし)
- カラーマネジメントを無効にする
シーケンス/カラー設定
大きく分けると「ダイレクト~ 」と「広色域~ 」の2つのカテゴリーと無効にする選択肢があります。
「ダイレクト~ 」カテゴリー
基本的には、Premiere Pro 2023からの初期のカラーマネジメント機能との互換性を考慮した方法です。
作業用カラースペースに、選択した「ダイレクト~」と名前に記載されたカラースペースを利用します。 Rec.709/ PQ (Rec.2020 ST2084)/ HLG (Rec.2020 HLG)があります。出力カラースペースは作業カラースペースと同じものになります。
多くの場合、これらの設定でもいいですが、プリセットの段階では用途が限定されます(後ほどでも変更可能です)。
プリセットからシーケンス作成した場合には「ダイレクト~ 」が使用されます。
「広色域~ 」カテゴリー
Premiere Pro 2025.2から追加されたカラーマネジメントの方法です。
作業用カラースペースにACEScctを使い、「ダイレクト~」で提供されるRec.2020 PQ/HLG、Rec.709などのカラースペースより広い作業用カラースペースで編集ができます。Rec.2020より広い色域を使用する素材を利用する場合に良い選択肢です。
カテゴリー内では、カラースペースを圧縮する際の程度が選択できます。
設定による変更は「詳細」の内容に反映されます。
どちらを使えば良いか?
基本的にはどちらを使用しても構わないでしょう。なぜなら、この2種類は、名称こそ違いますが、基本的に同じ機能の設定違いだからです。何か支障があれば、設定の変更で対応が可能です。
判断すべき要素としては、「ダイレクト~」の場合はSDRとHDRの違いで、目的に合わせて選択(Rec.709(SDR)かPQ(HDR)かHLG(HDR))する必要があります。それぞれの形式だけへの書き出しに設定されます。一方で「広色域~」であれば作業用カラースペースを意識する必要はありません。ただし、出力カラースペースを任意で設定する必要があります。
重要なのは、処理する作業用カラースペースが必要な大きさがあるかと、出力用カラースペースが書き出す映像のカラースペースに対応しているかです。
作業パイプライン
<注意点>「Wide Gamut (Tone Mapped)」プリセットで設定されている「出力トーンマッピング」を使用すると、SDRメディアを広色域の作業カラースペースに変換する際に、若干暗く見えることがあります。これは、色調整が必要なカメラオリジナルのSDRメディアにとっては問題ではありません。というのも、すべての色調整は出力トーンマッピングが適用される前に行われるため、常にソースレベルを調整していることになるからです。
しかし、すでにグレーディング済みのSDRメディアに対しては、見た目が変わってしまうため問題になる可能性があります。この問題を最小限に抑えるには、「Wide Gamut (Minimal Tone Mapping)」プリセットを使用するのが効果的です。このプリセットでは、SDRクリップのハイライト部分のみにトーンマッピングを限定し、さらに色域外のハイライトもトーンマッピングされるという利点があります。
詳細はこちらのHelp Xをご確認ください(英文)
Q:これまでのようにLUTを使うことはできますか?
LUTを使うワークフローを利用されている方も多いかと思いますが、カラーマネジメント下ではLUTの使用には注意が必要です。また使い方によってはおかしな結果を招くことになります。
左 通常処理 / 右 不適切なLUT適用
カラーマネジメントの無効化
これまでどおりの LUTの利用は、カラーマネジメント上ではある程度考慮すべきことがあります。逆にいえば、カラーマネジメントを使用しないことで、これまで通りのLUTが利用できます。
「カラーマネジメントの無効化」を使えば、シーケンス内容の全てにたいしてカラーマネジメントがオフになり、これまでと内じようにLUTが使用できます。
ただし、使用するLUTがRec.709向けのLUTなのであれば、作業用カラースペースはRec.709である必要があります。
シーケンスのカラーマネジメントを無効にする
クリップ毎に適用
Rec.709以外の素材の場合、クリップ個々に設定に「カラースペースを上書き」で「Rec.709」と設定した上で、LUTを適用することで、これまで通りのLUTでの結果を得られます。
クリップ毎に適用
Q:Lumetriの「クリエイティブ」のプレビューが違うのは?
クリエイティブの結果とプレビュー
これはプレビューの表示内容にカラーマネジメントが反映されていないためです。結果で作用を確認しましょう。
txt:高信行秀 構成:石川幸宏 撮影:マリモレコーズ 撮影協力:TSUKUBA BREWERY(つくばブルワリー)