第4回 カラーマネジメントはPremiere Proに何をもたらすか? 〜撮影編〜
現在のデジタルカメラで撮影された映像コンテンツは、その最終形態のほとんどが、TVモニター表示などの標準規格である『Rec.709』で適正表示されることを想定したものです。しかし、近年デジタルカメラの性能が向上し、カメラが表現できるダイナミックレンジ(明暗)の領域が大幅に拡がり、また色表現の幅も大きく拡がったいま、そのカメラの性能を充分に活かすには、撮影時にLogやRAWでの収録方法があります。
しかし、多くのユーザーはまだその適切な撮影方法と、編集での後処理、つまりLogグレーディングの方法やRAWデータの処理方法がわからない方も多く、本当の意味でそのカメラの特性や機能を活かしきれていないのが実情でしょう。
Premiere Proでは、今回のカラーマネジメント機能の搭載により、撮影時のカメラの収録モードをLogやRAW収録で設定することで、カメラが持つ本来の優れたセンサー性能をフルに生かして表現することができます。これは従来のRec.709の見た目(=SDR/スタンダードダイナミックレンジ)に比べて、色の再現性もダイナミックレンジも広い、いわゆるHDR(ハイダイナミックレンジ)の表現力を持った映像を作ることができるようになりました。
より鮮やかな色表現やコントラストの幅などを、クリエイターの思った通りの映像表現をコントロールできるようになったカラーマネジメント機能。これを活かす撮影方法では、どのような設定が必要なのか?
ここではカメラ側の撮影モードの設定方法について見ていきましょう。
カラーマネジメントを活かした撮影の考え方
通常のSDR=Rec.709での撮影においては、これまで通りの撮影とは変わりませんが、LogやRAW形式の場合ではこれまでと異なってきます。
SDR=Rec.709での撮影
これは従来と変わりません。カメラ内でRec.709の適切な設定で撮影します。各カメラメーカーによって、独自の709モード設定がありますので、適切なモードを選択して収録します。
収録形式は、素材のメタデータ等に記録されますので、編集時に確認が可能です。
Premiere Proに取り込まれた段階で、収録モードを確認することができます。
Logでの撮影
Logの撮影されたものは、見た目がLogのままの状態(全体的に白っぽい映像)か、何かしらのLUT(Look out Table)を当てて、SDR=Rec.709の映像としてモニターでは確認できます。しかし、前回までのBlog内容でわかるように、Logの素材には、Rec.709以上の表現力を持った映像が記録されています。カラーマネジメント機能を持った新しいPremiere Proでは、それを引き出すことができます。
Logで収録した映像が白っぽく見える理由
カメラのLog設定で撮影した場合、撮影データの暗い部分と明るい部分の差(コントラスト)をLogカーブで収録することで、データを小さくして記録します。これにより全体的にコントラストが低く抑えられます。さらにLogの映像は色域(Color Gamut)も違うので、Rec.709の映像に比べて彩度も低く抑えられているため、全体的に白っぽく見えるのです。
HDR対応モニターの利用
Log形式のままでは、本来の映像になった状態が的確に分かりません。
そこで撮影時の段階から、理想的に言えば、SDR=Rec.709以上の収録素材の状態を確認しながら撮影することが望ましいです。
しかし、これは現在一般的なモニター、つまりRec.709表示のみモニターでは、確認できないことも意味しています。
理想的なことは、撮影時にHDR表示が可能なモニターを使えば、多くのLog形式をHDR(PQもしくはHLG)のカラースペースに展開し、表示はもちろん、計測した輝度波形(HDR換算)など表示もされます。これでカメラの持つ性能を最大限に活かした撮影が可能です。
※ 注)この工程で、LUTを使った表示をイメージされる方もいるかと思われますが、LUTを通じての表示はほとんどの場合、SDR=Rec.709での表示であり、ここでの目的である「カメラ本来の表現」ではありません。
この製品のような機能を利用することにより、Log形式の撮影においても性能を活かした撮影ができ、その結果はPremiere Proで活かされます。
※注)HDRへの展開は、あくまでも視認のためであり、記録はあくまでもこれまで通りLog形式です。
RAW撮影の場合
RAW撮影・収録の場合も、多くの場合は撮影内容の表示はLogの表示になるので、Log収録時と同様にすれば、HDRでの内容確認をしながらカメラの性能を活かした撮影ができます。
Premiere Proでの処理
撮影した素材は、撮影した形式(Rec.709、Logか、どの色域かなど)をPremiere Proに取り込んだ状態から、データを適切に解釈し、作業用カラースペース上にその表現を展開します。
多くの場合は付加されているメタデータ情報を参考に自動的に反映されます。そうでない場合は「クリップの属性」から手動で設定します。
これによりLog/広色域で撮影された本来の高品質な映像を引き出して、それらを編集することができます。
まとめ
今回はPremiere Proがカラーマネジメント対応することでできるようになったことで、カメラの性能を引き出せる撮影について紹介しました。
これまでは、Premiere Proは編集においてその力を発揮してきましたが、カラーマネジメントの能力を身につけたことで、素材の表現力を活かすことができるようになりました。これらはクリエイタにとって大きなメリットになるでしょう。
txt:高信行秀 構成:石川幸宏 撮影:マリモレコーズ 撮影協力:TSUKUBA BREWERY(つくばブルワリー)