災害対策のプロに聞く情報管理 Adobe Acrobatで備える「デジタル防災」とは?

近年、地震や豪雨など自然災害が頻発し、防災意識も高まっています。防災グッズの備えはもちろんですが、現代では「情報」も命を守る大事な備えのひとつですよね。

わたくしフリーライター小暮も防災マニュアルをPDF化して保存していますが、果たしてこれだけで十分なのでしょうか?

そこで、今回は防災・危機管理ジャーナリストであり、防災システム研究所の山村 武彦(やまむらたけひこ)所長に「災害時に備えた情報管理」をテーマにインタビューを実施。

Acrobatを活用した情報管理の方法、現代ならではの防災対策についてお話を伺いました。

災害時に正しい情報が集まる仕組みをどう作るか?

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——最近も大きな地震があり、防災意識が高まっています。こうした災害時においてはどのような「情報」が重要になるのでしょうか。

災害時には「災害そのものの情報」と「被害の情報」が不可欠です。 それらの情報をもとに、二次災害の恐れなど今後の展開を予測し、今ここにいて安全か、次に何をすべきか、という自らの行動を決めていくからです。

つまり、「現状把握」と「展開予測」、そして「自身の行動決定」に必要な一連の情報が重要になります。

——なるほど。現代ではスマホでさまざまな情報が手に入りますが、誤情報やデマも多く、正確さの見極めが難しい場面もあります。

だからこそ、「情報トリアージ(情報の質や緊急度を見極めること)」という考え方も必要になりますね。将来的にはAIなどが担うべきですが、今はまだ私たち自身が正しい情報を得るための仕組みを、災害が起きる前に作らねばなりません。

——例えば、どんな仕組みがあるのでしょうか?

例えば、被災地外の親戚などを中継点に安否確認を取り合う、「三角連絡法」という方法があります。被災地への電話はつながりにくくても、被災地から外部への電話は比較的つながりやすいという特性を利用したものです。

同時に、ぜひ「家族防災会議」を開いてほしいと提唱しています。会議では「三角連絡法」や災害用伝言ダイヤル(171)といった連絡手段の優先順位、ハザードマップの共有、そして連絡が取れない場合の集合場所も、「第一候補は〇〇小学校、そこが危険なら第二候補は△△公園...」というように、複数決めておくと良いでしょう。

——そこまで具体的に決めておけば、迷わず行動できそうです。

家族単位だけでなく、「子どもの迎えに行けない時は、隣近所で助け合う」など、地域コミュニティとの連携も話し合っておくとより安心ですね。

平時の今だからこそ、想定外をなくすために、想像力を働かせて備えることが、何よりも大切なのです。

災害に関わる情報は紙とデジタルの両方で持とう

——この「家族防災会議」の情報は、どのような形で備えておくのが理想でしょうか?

紙とデジタル、両方で備えるのがベストです。 災害発生から30分を過ぎると、電話回線やインターネット回線にアクセスが集中し回線が混雑するほか、基地局のダウンでメールさえ届かなくなることがあります。またスマホのバッテリーも有限です。そうした事態を想定すると、連絡手段は1つに絞らず、複数用意しておくべきです。

——例えば、どんな備え方がありますか。

名刺サイズに折りたためる「防災カード」がおすすめです。家族の連絡先や連絡方法の優先順位、避難場所などを記入して、財布に入れておけば常に持ち歩けて確認できます。

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——これならすぐにでも準備できます! 一方、デジタルの利点はいかがでしょうか。私はPDFで情報を保管しようと考えているのですが...。

PDFはレイアウトを崩さずに保存でき、スマホやタブレットなど多様なデバイスで同じように閲覧できるメリットがありますね。自治体が公開しているハザードマップや避難所の地図などを、事前にPDF化してスマホに保存しておけば、オフラインでも確認できます。

カメラアプリで撮影した画像データより出力がしやすく、ファイルサイズが縮小できるのも優れた点です。

加えて、PDFならパスワードで保護できるので、セキュリティも高められます。家族間やコミュニティに限った個人情報も記入できるのも安心ですよね。こうして紙のカードと、デジタルの情報を両方備えておく。それが、現代における賢い防災対策と言えるでしょう。

情報量が多い「防災マニュアル」から自分向けの情報を引き出す

——自治体が配布する防災マニュアルやハザードマップは、有益な情報源ですが「どこに何が書いてあるか」が複雑で、非常時に慌てて見つけ出すのは難しいとも感じています。

自治体によっては、webサイト上の情報が分散していたり、ダウンロードしにくい形式になっていたりする場合もあります。本来は行政が使いやすく提供すべきですが、現状では私たちが工夫する必要がありますね。

——私はAcrobatの「ページの結合」機能を使って、官公庁や自治体のwebサイトで公開されているPDFファイルをまとめてスマホに保存しています。

防災マニュアルは情報量が多いので、自分に必要な情報をすぐに引き出せるように備えておくのはいいですね。

AcrobatのPDFはOCRに対応しているので、災害の種類や地名などから必要な情報を検索できますし、「ページの整理」機能を使えば、マニュアル内のページを抜粋することもできます。

——AcrobatにはAI アシスタント機能が搭載されたので、こちらも事前準備に効果的かもしれません。

AI アシスタント、ですか。具体的には何ができるのですか?

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——PDF化した文書の内容について、チャット形式で質問できるんです。防災マニュアルを開いて、「避難時の持ち物の優先順位は?」や「〇〇駅近くの避難場所を教えて」と尋ねると、AIが内容を読み解いて、要点を回答してくれます。

外部の不明な情報と混ざることなく、PDFの資料の中身だけを正確に要約してくれるのなら、信頼性も高く情報トリアージの観点からみても効果的です。

——防災マニュアルだけでなく、保険の契約書も「被災した場合に受けられる補償は?」といった質問を投げかければ、長い契約書を読まずとも重要なポイントを把握できるかなと期待しています。

災害時の気が動転している中で、細かい文字を追うのは困難ですから、平時のうちに内容を把握すると役立つと思います。

いざという時に慌てないために、身近なツールで準備を進めておくのは良いアプローチですね。

個人情報も保険証券もひとまとめに。パスワードで守る「デジタル金庫」

——災害を乗り越え、生活を再建していくうえで、個人情報が求められることは多いのでしょうか?

非常に多いです。公的支援を受けるための「罹災(りさい)証明書」の申請、保険金の請求、税金の減免措置、義援金の配分、応急仮設住宅への応募など、多くの手続きで本人確認書類の提示が求められます。

——となると、運転免許証やマイナンバーカードといった、重要な個人情報を安全に携帯する術が必要ですね。しかし原本を持ち歩くのは紛失のリスクもあります。

身分証などをPDF化したうえで、パスワードで保護するのは有効そうですね。Acrobatなら、閲覧や編集にパスワードをかけられるので、スマホを紛失しても中の情報が漏れるリスクを低減できます。

災害時に気が動転してパスワードを忘れてしまう、という場合に備えて、必要最低限のアクセス権限を家族に付与しておくとより安心かもしれません。

身分証以外では、預金通帳の番号を控えておくといいでしょう。

——預金通帳ですか。番号だけで問題ないのですか?

災害時には、通帳や印鑑がなくても預金を引き出せる「災害時における金融上の特別措置」という制度があります。 金融機関によりますが、本人確認ができれば最大20万円程度まで払い戻しに応じてくれる場合があります。

その際、口座番号と本人確認書類が必要になるため、やはり事前にデジタルデータで安全に保管しておくことは有効ですね。マイナンバーカードも個人番号がわかれば、暗証番号を使って個人を証明できます。

——今は貴重品を持ち出せなくても、スマホに安全な形で情報が入っていれば、その後の手続きがスムーズに進む可能性が高まるわけですね。

有事では特例として原本がなくてもデジタルで対応できる場合も多いですから。私は「防災3か条」の1つとして「津波、洪水、逃げるが勝ち。持ち出すものは命だけ」と言っているのですが、今は命だけじゃなくて「スマホ」も持って逃げるのがその後の安心につながる時代かもしれません。

被災後に絶対役立つ! 写真をスピーディに「状況証拠」化

——ここまでは主に災害が起きる「前」の備えについて伺ってきましたが、被災してしまった「後」で、PDFやAcrobatの機能が役立つ場面はありますか?

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まず、被災状況の記録に非常に役立ちます。自宅が被害に遭った場合、スマホで家屋の内外をさまざまな角度から撮影して写真をPDF化し、メモを添えたうえで1つのファイルにまとめておくのです。

——その記録は何に使うのでしょうか?

罹災証明書の申請や、保険会社への損害報告に使う「状況証拠」として、極めて重要です。 最近は、保険会社も申請者からの写真をもとに損害状況を判断することが増えています。この記録があるかないかで、その後の手続きのスピードが大きく変わってくる可能性があります。

——それは必ずやっておくべきですね! 他に、情報の保存や共有といった面ではいかがでしょうか。例えば、避難所の掲示板など、紙でしか得られない情報も多いですよね。

ええ。災害時は、避難所の掲示板に支援物資の案内や重要な連絡事項が張り出されることがよくあります。掲示板は大切な情報源です。

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——その時、スマホで撮影してPDF化できる「Adobe Scan」のようなアプリも役立ちそうですね。掲示物をPDF化すれば、後から見返したり、遠くの家族や周囲ともデータをやり取りできるのも大きな利点かなと思うんです。

活用できると思いますね。デジタルならではの保存性・共有性を活かすことで、被災後の困難な状況を少しでもスムーズに乗り越える一助となるでしょう。

まとめ:Acrobatで「デジタル防災」を始めよう

今回のインタビューで改めて感じたのは、災害時における「情報」の大切さと、その活用法、そして備え方。

山村所長も「悲観的に準備して、日頃は楽観的に暮らすことが大事」と話されていましたが、紙とデジタル、この両輪で情報を準備し、家族や地域とも共有できる仕組みを、平時から整えておくことが求められているんですね。

日々を楽観的に過ごせるよう、防災グッズなどの備蓄に加えて「正しい情報を安全に持ち、必要な時に活用できる準備を入念にすること」が、防災の要だと実感しました。

みなさんも、普段から使い慣れているスマホや、「Acrobat」や「Adobe Scan」といった身近なツールを味方につけて、「デジタル防災」を始めてみましょう。それが未来の安心を築く第一歩になるはずです。

ぜひ、今日からできる防災を。

■取材の協力:防災システム研究所

■防災のプロ:防災システム研究所 所長 山村武彦氏

東京都杉並区出身。1964年、新潟地震での災害ボランティア活動を契機に、防災と危機管理のシンクタンク「防災システム研究所」を設立。以来50年以上にわたり、国内外で発生する災害の現地調査を行っている。主に報道番組での解説や講演、執筆活動などを通じ、防災意識の啓発に取り組む。また、多くの企業や自治体の社外顧問やアドバイザーを歴任し、本当に使える実践的な防災マニュアルやBCP(事業継続計画)マニュアルの策定、監修など、災害に強い企業、社会、街づくりに携わる。座右の銘は「真実と教訓は、現場にあり」。連載は現代ビジネス「南海トラフ巨大地震」(講談社)など多数。著書は「災害に強いまちづくりは互近助の力」、「南三陸町 屋上の円陣」(ぎょうせい)など多数。