ベテランほど知らずに損してるIllustratorの新常識 2025 第6回「スウォッチから生成パターンまでカラー機能の新常識」
今回は、Illustratorにおけるカラー関連のアップデートを紹介します。
「カラーやスウォッチなんて、もう十分使いこなしてるよ」と思うかもしれませんが、実際には細やかな改良が施され、使い勝手が向上しています。
アップデート情報に加え、カラー関連で把握しておきたい情報をお伝えします。
スウォッチ
説明するまでもなく、スウォッチ(Swatches)とは、Illustratorでよく使うカラー・グラデーション・パターンを保存し、いつでも再利用できるようにした「色見本帳」のような機能ですね。
一括で色を変更できる:グローバルスウォッチ
スウォッチを使う上で、ぜひとも利用したいのが「グローバル」オプションです。
通常のスウォッチはカラーを適用するだけですが、グローバルスウォッチは適用先とのリンク情報を保持しています。そのため、グローバルスウォッチのカラー情報を変更するだけでアートワークに適用したカラーが自動更新されるのです。
グローバルスウォッチを設定するのは、スウォッチをダブルクリックすると開く[スウォッチオプション]ダイアログボックスで[グローバル]オプションをONにします。
〈グローバルスウォッチ〉になると、[スウォッチ]パネルでは右下が欠けたアイコンになります。
なお、「カラータイプ:特色」を選択すると、自動的に[グローバル]オプションはONになります。
まとめて管理が簡単に:スウォッチグループ作成時にグローバル化
グローバルスウォッチの便利さを理解しても、ひとつずつ設定していくのは面倒です。そんなときにオススメなのは、アートワークを選択した状態で[新規スウォッチグループ」を作成する方法です。
- [新規スウォッチグループ」を作成するには、アートワークを選択した状態で、[スウォッチ]パネル下部のフォルダーアイコンをクリックします。
- ダイアログボックスが開いたら[プロセスをグローバルに変換]オプションをONにすれば、まとめてグローバルスウォッチとして登録できます。
グラデやパターンも整理できる:スウォッチグループの進化
従来「スウォッチグループ」には単色のスウォッチしか含めることができませんでした。現在、スウォッチグループには「グラデーション」と「パターン」を含めることができます。
- [スウォッチ]パネル下部のフォルダーアイコンをクリックしてスウォッチグループを作成する方法では、「グラデーション」と「パターン」スウォッチは含まれません。
- [オブジェクトの再配色]ダイアログボックス(詳細版)のスウォッチグループには(当然ながら)単色のスウォッチしか表示されません
カラー情報を共有しやすい:スウォッチ情報カード
ブランディング、プロダクトチームなど、使用しているカラーの色情報を共有し合うとき、スウォッチ情報カードを作成します。「スウォッチ情報を作成」機能を使えば、選択したスウォッチのカラーコードなどの情報をアートボード上に手軽に作成できます。
最近のIllustratorには、スウォッチ情報カードを手軽に作成する機能が追加されています。
- [スウォッチ]パネルで複数のスウォッチを選択し、[スウォッチ]パネルメニューの[スウォッチ情報を作成]をクリック(選択しているスウォッチが1つだけのときには実行できません)
- [スウォッチ情報を作成]パネルが開いたら、次を指定して[作成]ボタンをクリック
- カードのサイズ
- カラーコード(16進数/RGB/HSB/CMYK)
- インク形式(プロセス/特色)
- カードの背景の有無(カードごとに白い長方形を描画)
- フォントによっては文字がガタガタしてみえます。
- [グループを解除]コマンドは使えません。大胆に編集するには[分割・拡張]コマンドで分解します。なお、作成したスウォッチ情報は「スウォッチ情報レイヤー」に格納されます。
すぐに前の色を呼び出せる:最近使用したカラー
[スウォッチ]パネルと[カラー]パネルに[最近使用したカラー]が表示されるようになりました!ブランドカラーを調整中したり、ちょっと試し塗りをしているときでも、作業の流れを止めません。
- 記憶できるカラーは14色まで。それ以上になると古いものから消えていきます。
- [最近使用したカラー]は、ドキュメントを切り換えたり、Illustratorを再起動しても引き継ぎます。
- 個別に削除したり、全クリアすることはできません。
AIで模様を作れる:生成パターン
[スウォッチ]パネルの右上に追加された[生成パターン]アイコンをクリックすると、[生成パターン]パネルが開きます。ここでは プロンプト(テキスト情報)を入力するだけで、IllustratorがAIを使ってオリジナルの模様を自動生成 してくれます。
これまでIllustratorでパターンを作る方法は次の3つでした。
1. 従来型のパターン
背面に透過オブジェクトを配置してタイルを並べる方法。Illustrator初期から使われてきたクラシックな手法。
2. [オブジェクト]メニューの[パターンを作成]
パターン編集モードでタイルの繰り返しや間隔を視覚的に設定できる方法。Illustrator CS6以降の主流。
3. リピートオブジェクト(リピートグリッド)
Illustrator 2021以降に登場した新機能。オブジェクトを繰り返して配置する「グリッド」「ラジアル」「ミラー」などを選んで構築。
そして今回登場したのが…
4. 生成パターン(AI生成)
テキストプロンプトを入力するだけで、Illustratorが自動的に新しい模様を生成し、パターンスウォッチとして保存できる方法。これにより、従来は「描く→並べる→調整する」という工程が必須だったパターン作成が、言葉から一瞬で形にできるようになりました。
[カラー]パネル/カラーピッカー
スライダー操作が即反映:リアルタイム適用
[カラー]パネルの各カラーのスライダーをドラッグすると、それに応じてリアルタイムに反映されるようになっています。ドラッグ操作だけでなく、値のフィールド↑/↓キーでも可能です。
リアルタイム適用を使うためには、環境設定の[パフォーマンス]カテゴリの[リアルタイムの描画と編集]オプションがONになっている必要があります(デフォルトでON)。
CSS感覚で色指定:拡張Hexコード入力
[カラー]パネルや[カラーピッカー]ダイアログボックスでの、次の形式でカラーコードを入力することが可能になっています。
短縮コード対応
- 1桁(f→ fffffff)
- 2桁(ef → efefef)
- 3桁(123 → 112233)
10進数フォーマット対応
0から255の数字を並べる
- 12,255,09
- 12 255 09
- 12.255.09
CSSカラー名対応
- 'red'(FF0000)、'blue'(0000FF)などの色名を使用可能
- 'ye' で 'yellow'(FFFF00)など、部分一致も対応
とても便利な機能ですが、ドキュメントのカラーモードがRGBのときのみの機能としてお使いください。
どこからでも色を吸える:カラーピッカーのスポイト
実は、何度か付いたり消えたりしているのですが、カラーピッカーに[スポイトツール]が追加されています。
[スポイトツール]のまま、ダイアログボックス外からカラーを抽出できます。
ドキュメント内でクリックしたまま、Illustratorのドキュメントウインドウからドラッグすれば、Illustratorのウインドウ外からカラーを抽出できます。
グラデーション
黒白の手直し不要:選択色を自動でストップに反映
従来、線形/円形のグラデーションを設定するとき、常に「黒/白」になってしまっていました。現在、オブジェクトの塗り色が自動でグラデーションのスタートカラーに設定されるようになりました。
スウォッチからワンクリックで作成:グラデーション生成
選択したスウォッチからグラデーションを作成できるようになっています。
[スウォッチ]パネルでスウォッチを選択し、[スウォッチ]パネルメニューの[グラデーションを作成]をクリックします。[グラデーション]パネルにスウォッチをドラッグ&ドロップでも設定できます。
- 対応しているのは「線形」と「円形」のみ。「フリーグラデーション」は非対応です。
- 作成したグラデーションはスウォッチには自動登録されません。
2色だけでなく、3色以上のカラーにも対応しています。[スウォッチ]パネルの並び順で適用されますので、任意の並び順で設定したい場合には、スウォッチグループを作っておくとよいでしょう。
柔らかく溶け合うフリーグラデーション
Illustratorでグラデーションを作成するには次の4つのアプローチがあります。
- 線形グラデーション
- 円形グラデーション
- グラデーションメッシュ
- ブレンド
キャンバス上の任意の位置にカラーを配置し、柔らかく溶け合うグラデーションを作成できます。
- [グラデーション]パネルからフリーグラデーションを適用すると、カンバス上のアートワークからカラーをピックアップします。
- グラフィックスタイルにも登録できます。
画像トレースからグラデーションを抽出
〈画像トレース〉を行うと、ラスタライズ画像はベクター化され、単色の塗りパスの集合になります。
最近のIllustratorでは、この画像トレースにグラデーション検出機能が追加され、ベクターとして再現できるようになりました。
グラデーションにならないときには、次の3つを確認してみてください。
- カラーモード:自動
- パレット:自動/フル階調
- [グラデーション]オプションON
配色の試行錯誤が速くなる:再配色の新UIと生成機能
Illustratorの「オブジェクトの再配色」は、選択したアートワークの色を一括で置き換えたり、配色パターンを試せる強力な機能です。近年のアップデートでUIや機能が大きく改良され、従来の「色を一括で変える道具」から、「色を考えるプロセスを助ける道具」 に進化したと言えます。
UIの変更
[オブジェクトの再配色]は、非モーダル形式の「ウィジェット」として提供されています。そのため、ウィンドウを開いたままでもオブジェクトの操作が可能です。
ただし、ウィジェットは通常のダイアログボックスに比べて利用できる機能が限定されます。常に従来のダイアログボックスで開きたい場合は、[起動時に「詳細オブジェクトを再配色」ダイアログを開く]オプションをONにしてください。
写真をクリックするだけで配色完成:カラーテーマピッカーツール
新たに追加された カラーテーマピッカーツール を使うと、画像やイラストから簡単にカラーパレットを抽出できます。たとえば写真をクリックするだけで、その場で「自然な配色」を得られるので、ゼロから配色を考える手間が減ります。ブランド素材や写真ベースのデザインから色を拾って、すぐに調和のとれたカラーパレットを作成できるのが大きなメリットです。
デザイナー自身では思いつかない意外なカラーパターンが得られることもあり、ブレストやアイデア出しに最適です。
生成再配色でAIが提案
さらに、AIを活用した 生成再配色 機能が登場しました。テキストプロンプト(例:「秋らしい落ち着いた色合い」「未来的で明るい配色」など)を入力するだけで、アートワーク全体に新しい配色が提案されます
その他のカラー関連のアップデート
[アピアランス]パネルからのアクセス変更
これまでアピアランスで塗りボックスや線ボックスをクリックすると[スウォッチ]パネル、shift + クリックで[カラー]パネルにアクセスできました。
現在、次のように変化しています。
- クリック:直前に使ったモード(スウォッチ/カラー/グラデーション/生成パターン)
- shift + クリック:[カラー]パネル
PANTONEの利用現場ではおさえておきたいライブラリの削除
段階的に廃止されつつあったPantoneカラーライブラリですが、Illustrator 2024以降、完全に削除されています。
代替ソリューションについてはこちらの記事をご覧ください。
納品前の整理に最適:未使用項目の一括削除
未使用のスウォッチは、デフォルトのアクションを使って削除するのがスピーディでラクです。
Illustrator には最初から「未使用項目を削除」というアクションが登録されており、これを実行すると 未使用のスウォッチ・シンボル・グラフィックスタイル・ブラシ を一括で削除できます。
このアクションは、スウォッチのほか、シンボル、グラフィックスタイル、ブラシの未使用項目も削除します。利用目的に応じてカスタマイズしてお使いください。
まとめ
Illustratorのカラー機能は、地味に見える部分でも毎年のように改良が進んでいます。
特に 2025(29.x)系 では「スウォッチからグラデーション作成」、「スウォッチ情報カード」「最近使用したカラー」など、日常の作業効率を左右するアップデートが目立ちます。また、少し遡れると、2019(23.0)で導入されたフリーグラデーション や、Pantoneライブラリ廃止といった大きな節目もあり、バージョンによって使える機能が大きく異なるのも事実です。
カラー関連は「もう知っている」と思いがちですが、バージョンごとの追加機能を押さえておくことで、より快適で効率的なワークフローを構築できます。ぜひ最新の機能を試してみてください。
いつから?
ベーシック中のベーシックともいえる、カラーやスウォッチ、グラデーションに手が入ったのは最新バージョンのIllustrator 2025(29.x)以降です。
最新バージョン
- スウォッチからグラデーション作成(29.0/2024年10月)
- 画像トレースでグラデーション検出(29.0/2024年10月)
- スウォッチグループにパターンやグラデーションを追加(29.1/2024年11月)
- スウォッチ情報カード(29.1/2024年11月)
- カラーピッカーへのスポイトツール追加(29.2.1/2025年1月)
- 拡張Hexコード入力(29.4/2025年3月)
- 最近使用したカラー(29.7.1/2025年8月)
- スウォッチ選択をグラデーションストップに適用(29.7.1/2025年8月)
それ以前
- フリーグラデーション(23.0/2018年)
- Pantone ライブラリ削除(2022年)
- オブジェクトの再配色のUI変更(25.1/2022年)
- リアルタイムカラー適用(27/2024年)