ベテランほど知らずに損してるIllustratorの新常識 2025 第4回「ベテランユーザーが見落としがちなアートボード活用のポイント」
Illustratorで制作する上で欠かせない「アートボード」。2008年リリースのIllustrator CS4で導入されてから17年。アートボード数やサイズの上限から整列・複製・書き出し機能などが大きく強化されています。
「アートボードで〜ができたら…」「アートボードの〜が使いにくい」などの要望が実は解決されているかもしれません。
本記事では、知っていると作業効率が上がるアートボードの機能と操作のコツを紹介します。
現在(2025年)、商業印刷の制作現場では「アートボードサイズ=仕上がりサイズ」 が主流です。これは、入稿トラブルの防止や出力時の整合性、作業効率の向上といった点で多くのメリットがあるためです。
- 出力サイズが明確:アートボードを見るだけで完成サイズがすぐわかる
- 塗り足しの管理が容易:アートボード外に3mmなど明確に設けられる
- PDF書き出しが簡単:「アートボードサイズで書き出し」=仕上がりサイズと一致
- スクリプトとの相性が良い:アートボード座標を基準に自動処理が可能
- トリミング表示やプレゼンテーションモードに対応
次のような場合には、以下のような目的であえて異なるサイズを設定する場合があります。
- 複数案やバリエーションを1つのアートボードで管理したいとき
→ 例:ハガキサイズを3種横並びで検討中など
- 出力用紙サイズ(A3ノビ、B3など) に合わせたアートボード設定
→ 例:仕上がりA4だが、印刷時のノビサイズで作成
- Web UIモックアップや画面設計など、印刷が前提でないケース
→ 例:アートボード=ブラウザ枠、内部にコンテンツを配置
仕上がりの確認のために外側に白いオブジェクトを作成している → 〈トリミング表示〉を使う
従来は、塗り足しや仕上がりサイズを超える部分を隠すために、仕上がりサイズの外側に白いオブジェクトを配置する方法がよく使われていました。
〈トリミング表示〉を使えば、アートボードの外にある塗り足しやトンボ、ガイドなどを一時的に非表示にし、仕上がり部分のみを画面上に表示する機能です。これにより、実際の完成イメージを視覚的に確認しやすくなり、作業中の誤認や確認ミスを防げます。
- アートボード外の要素(塗り足し、トンボなど)は一切表示されない
- ガイドやグリッドも非表示になります
- すべてのアートボードが対象
デフォルトでは、〈トリミング表示〉にはキーボードショートカットが設定されていないので、設定しておくと重宝します。
なお、スナップなどの機能は有効なままですが、ガイドが表示されないと作業に支障が出る場合もあります。そのようなときは、従来通り外側に白いオブジェクトを配置する方法を活用するとよいでしょう。
Illustratorでスライド資料を作る場合、PDFに書き出してAcrobatでプレゼン → 〈プレゼンテーションモード〉を活用
プレゼンテーションモードは、Illustratorのツールやパネルなどのインターフェースをすべて非表示にして、アートボードのみを全画面表示するモードです。
- アートボード内の内容のみが表示される(トリミング表示状態)
- IllustratorのUI(ツール、パネル、メニューなど)がすべて非表示に
- スライドのように左右キーでアートボードを切り替え可能
- 背景は黒のみ(変更できない)
- トランジション(スライド切り替えのアニメーション機能)はない
複数アートボードにも対応しており、スライドのように順に表示できるため、クライアントへの提案やレビュー時にデザインそのものをシンプルに伝えるプレゼン用途に適しています。
※ 作業中ではなく、見せる用途に特化したモードです。
〈プレゼンテーションモード〉の開始と終了
- プレゼンテーションモード開始:shift + Fキー
- プレゼンテーションモード終了:escキー
ツールバーの下から2番目、2つのウィンドウアイコンをクリックして表示されるポップアップから切り替えることもできます。
「アートボード数が足りない」や「大きなアートワークを原寸で作りたい」 → アートボード数やアートボードサイズの制限が拡張
当初はアートボード数の上限が100だったため、多数のアイコンを作成する際などに「アートボード数が足りない」という制約がありました。現在ではこの上限が最大1,000まで拡張され、より多くのアートボードを扱えるようになっています。
さらに、アートボードサイズについても、以前は各辺が最大約6mまででしたが、現在では約60mまで拡張され、大判出力や原寸サイズでの制作といったニーズに応えられるよう進化しています。
カンバスとの関係
アートボードは「カンバス」上に配置されます。アートボードのサイズ設定や配置はカンバスの制限内でのみ可能です。
「アートボードをサクサク切り換えたい」 → 実はキーボードショートカットがあるんです
アートボードを切り換えるには次の方法があります。
[アートボード]パネル
アートボード番号をダブルクリックして切り替えます(アートボード名の余白も可能)。ただし、アートボード名をダブルクリックするとアートボード名の変更モードに入るので注意が必要。
アートボードナビゲーション
ドキュメント下部にあるアートボードナビゲーションで、「次/前/先頭/最後」のアートボードに切り替え可能です。また、[アートボード名の一覧]アイコンをクリックすると、ポップアップでアートボード名の一覧が表示され、そこから選択することもできます。
なお、ドキュメントウインドウ下部には、通常「現在のツール」名が表示されますが、これを「アートボード名」に切り替えて表示することも可能です。
キーボードショートカット
[キーボードショートカット]ダイアログボックスに表示されないため、キーボードショートカットがないと思われがちですが、実はキーボードショートカットは用意されています(変更できません)。
「アートボードで書き出すとエッジがぼやける」→ 原因を知って対策しましょう
「アートボードで書き出すとエッジがぼやけるため、毎回Photoshopでエッジをトリミングしている」という声を聞くことがあります。
原因を知れば解決できます。バナーやSNSのグラフィックなどを制作する上で理解しておきましょう。
原因と対策
アートボードをビットマップ画像として書き出す際は、表示の有無に関わらず、常にピクセルグリッドに合わせて書き出されます。
例えば、アートボードの端に1pxの線がある場合、理論上は0.5pxずつ分かれるはずですが、ピクセルグリッドでは1pxとして処理されるため、アンチエイリアス処理されてしまい、線がぼやけて書き出されてしまいます。
線については、位置を微調整することで解決できる場合が多いですが、それだけでは十分ではないこともあります。
ここで重要になるのが「定規」とアートボードの設定です。アートボードを選択すると、その座標を[プロパティ]パネルで確認できます。原点を左上に設定し、X/Yの値が整数になっていないと、書き出し時にぼやける原因になります。
アートボードで作業する際、多くの場合アートボードの左上を原点(0, 0)とする「アートボード定規」を使用します。しかし、アートボード自体の座標がピクセルパーフェクトで設定されていないと、個々のオブジェクトがどれだけピクセルパーフェクトに配置されていても、最終的にアンチエイリアス処理がかかってしまいます。
まとめ
- アートボードそのものをピクセルパーフェクトにする
- 奇数幅の線は偶数にするか、線を内側にする
- アートボード定規とウィンドウ定規の違いを意識して使い分ける
「入稿前やほかの人に渡す前にアートボード外のオブジェクトを削除したい」→ 選択コマンドの組み合わせでサクっと行えます
次の手順でアートボード外のオブジェクトをスピーディに削除できます。
- [選択]メニューの[作業アートボード内のすべてを選択]
- [選択]メニューの[選択範囲を反転]
- Deleteキーで削除
- [作業アートボード内のすべてを選択]コマンドは、アートボードに少しでも重なっているオブジェクトが対象です。
- 複数のアートボードで作業している場合には、このフローでは対応できません。
この一連の流れは、アクションに登録できます。
「アートボードとその中のアートワークを、ほかのドキュメントで流用したい」 → アートボード単位でコピー&ペーストできます
次の手順でアートボード単位でコピー&ペーストできます。
- [アートボード]ツールでアートボードを選択してコピー
- 他ドキュメントに切り換えてペースト
パスが多いアートワークなど、重いデータの場合にはコピー&ペーストでなく、ウィンドウを並べてドラッグ&ドロップすると落ちにくいです。
その際、次の設定を確認しておきましょう。
コピー元のレイヤーにペースト
[レイヤー]パネルメニューの[コピー元のレイヤーにペースト]をONにしておくと、ペースト先のドキュメントの同じレイヤーにペーストされます。
ペースト先のドキュメントに該当レイヤーがない場合には作成されます。
ロック/非表示オブジェクトを一緒に移動
環境設定の[選択範囲・アンカー表示]カテゴリの[ロックまたは非表示オブジェクトをアートボードと一緒に移動]オプションをONにしておきましょう。
「移動」と書かれていますが、複製の際にも同様です。
「[再配置]じゃなくて、オブジェクトのようにアートボードを整列させたい」 → キーオブジェクト以外、[整列]パネルから実行できます!
[アートボード]ツールを選択していると、ドキュメント上でアートボードをオブジェクトのように扱えます。shift + ドラッグにも対応。
複数のアートボードを選択したら、[整列]パネルから次の操作を行えます。
注意点とコツ
- キーオブジェクト(基準固定)整列には対応していません。
- コントロールパネルや[プロパティ]パネルでも整列できますが、等間隔に分布を実行するには、[整列]パネルを使う必要があります。
- [オブジェクト]メニューの[整列]は実行できますが、[分布]、[等間隔に分布]は実行できません。
再配置
2025年6月リリースの Illustrator 2025(29.6)からアートボードの再配置の挙動が変わっています。
[再配置]ダイアログボックスで設定後、マウスポインターが次のように変わり、クリック操作が必要になっています。
「作業中のアートボードがわかりにくく、別のアートボードにペーストしまうことがある」 → 視覚確認のため、ビデオ定規を表示しましょう
「ビデオ定規」を表示にすると、現在アクティブなアートボードがわかりやすくなります。
ビデオ定規のカラーは変更できません。
特定アートボードに複製
- 同じ位置にペースト(⌘+F)
- 前面にペースト(⌘+F)/背面にペースト(⌘+B)
「アートボード共通のオブジェクトを準備するのが大変」 → [すべてのアートボードにペースト]コマンドを利用しましょう。
[編集]メニューの[すべてのアートボードにペースト]を実行すると、クリップボード上のオブジェクト(やテキスト)を、各アートボードの同じ座標に一括ペーストできます。
⌘ + option + shift + Vのキーボードショートカットも用意されています。
この際、元になるオブジェクトがダブってしまいますので、[コピー]ではなく、[カット]するとよいでしょう。
残念ながら、ノンブル(ページ番号)を挿入する機能はありませんので、ノンブルの元になるテキストをカットし、[すべてのアートボードにペースト]コマンドで複製後に、手入力で編集します。
新規ドキュメントを開いたとき、設定したアートボードの領域のみが白くなっています。ロゴのアイデア出しなどを行うときは、アートボードの制約を受けずにウィンドウいっぱいを使えるように設定しましょう。
判型内にレイアウトする必要がないパーツなどの作成時、アートボードの制約を受けずに広く使うためには、次のように操作すると、文字通り「真っ白なキャンバス」になります。
- [表示]メニューの[アートボードを隠す]をクリック
- [ドキュメント設定]ダイアログボックス([ファイル]メニューの[ドキュメント設定])を開き、[裁ち落とし]の値を「0」に設定する
[裁ち落とし]の赤い枠とガイドは独立していますので、ガイドは利用できます。
- [ガイドを隠す]を実行しても、裁ち落としの赤い枠は消えますが、それ以外のガイドもすべて消えてしまいますので得策とは言えません。
- 環境設定の[カンバスカラー]を「ホワイト」にすることでアートボード外を白くできますが、アートボードの枠が残ってしまいます。
「乱雑なアートボード名をなんとかしたい」→ 簡易的なリネーム可能があります
- [アートボード]パネルで変更したいアートボードを選択 [アートボード]パネルメニューから[アートボードオプション]をクリック
- [アートボードオプション]ダイアログボックスが開いたら[名前]に「slide」(例)を入力 「slide-1」「slide-2」…のようにネーミングされる
スクリプト
スクリプトを使うのもオススメです。
まとめ
アートボード機能が導入されてから17年。「あ、これできたの?」と驚くことが、いくつかあったのではないでしょうか。ぜひ、日々の制作に取り入れて、作業効率をアップさせてください!