Premiere Proのカラーマネジメント機能を応用するための映像技術解説
Premiere Proの新機能である、カラーマネジメントを有効に活用するためには、その前に素材の撮影時における、RAWやLogといった形式の撮影素材を理解する必要があります。
プロ映像制作の世界では、今では多くの映像クリエイターが使用しているRAWやLog形式ですが、まずは、これらがそもそもどういうものなのか?を知っておく必要があるでしょう。ここでは簡単にその成り立ちとどういうデータ形式なのかを解説します。
また今回のカラーマネジメント機能のもう一つの大きな特徴として、ACEScctという、広いカラースペースを採用していることにあります。ここでは、これについても基本的な解説をしておきたいと思います。
Log(ログ)とは何か?
モニター表示の標準規格:Rec.709とは?
まず最初に通常TVモニターで映像を映し出す際の映像規格があります。主にこれまでのテレビの世界で標準的に使用されてきた表示規格として『Rec.709』(読み方:レックナナマルキュー、もしくはナナマルキュー)という表示方法が一般的で、現在我々が普段見ている放送・配信映像のほとんどは、このRec.709に準拠しています。
このRec.709の”Rec”とはなんでしょうか?
よくRecording(レコーディング=録画)のRec.と勘違いしている方も多いのですが、これは国際電気通信連合(ITU-R)が定める「Recommendation(勧告)」の略称です。HDTV(高品位テレビ)用の色域・ガンマを規定したビデオ規格で、Rec.709はテレビ放送における映像の色や明るさの基準となります。これらのITU-Rが発行する技術規格や指針については「Recommendation(勧告)」と命名されており、その略称が「Rec.」です。
ITU-R: 国際電気通信連合の無線通信部門のこと。テレビ放送や通信分野の国際的な標準を策定する機関です。
BT.709: 同列で出てくる類義語として、「BT.709」という表記も見かけることがあると思いますが、Rec.709は、ITU-R勧告のBTグループ(電波・放送)における、709番目の規格であるため、本当の正式名称は「BT.709」がより正確な表記になります。
では、このRec.709=BT.709の役割とはなんでしょうか?
現状のHDTVの標準色空間、つまり現在のテレビ番組の制作・表示における色や明るさの基準を定めることで、さまざまな機器で一貫した映像を再現できるようになっています。
そして色域とガンマカーブの定義、つまりR(赤)・G(緑)・B(青)の原色と、映像信号を人間の見た目に近い明るさの表示に変換するガンマカーブを指定しています。
Rec.709規格で表示されるのは、一般的なTVモニター表示に適性な色域とガンマカーブを持つ標準規格になります。
Logとは何か?
このRec.709に対して、Log形式の映像データとは何でしょうか?
これは通常のRec.709の映像表示よりも、暗部からハイライトまでの諧調(暗部から明部までのグラデーション)が圧倒的に広く再現するために使われる、映像素材の記録方式のことです。
例えばカメラ内でRec.709の設定で撮影した場合、TVモニターの階調=ダイナミックレンジが人間の見た目よりも狭いため、より暗い部分は黒がつぶれ、輝度が高い発光部分などは白飛びしてしまうという現象が起きてしまいます。
例えば屋外ロケなどの明暗の差が激しい現場での撮影の場合、こうしたケースが見受けられますが、これをLog形式で収録することにより、より暗い部分からハイライトの細かい部分までディテールが残り、フィルムのような豊かな階調で映像表現をすることができます。
Logの始まり
このLog形式の始まりは、Cineon Log(シネオン・ログ)から始まります。1990年代初頭にコダック社が開発した、当時まだフィルム撮影が全盛だった頃、撮影し現像したフィルムをフィルムスキャナーという機械でスキャンニングして、ネガフィルムをデジタルデータに変換処理(DI=Digital Intermidiate(デジタルインターミディエイト))するシステム「Cineon(シネオン)」で採用された、10ビットの記録方式(ガンマカーブ)です。
フィルムに収録された広いダイナミックレンジを損なうことなく、そのデータ量を効率的に圧縮して記録できるため、ポストプロダクションでのカラーグレーディングの幅を広げ、現在のデジタルビデオカメラに搭載されているLog撮影モードの基礎となりました。
Cineon Logの主な特徴
フィルムの特性の再現: フィルムのトーンカーブをデジタルデータで再現できます。映像表現に重要な18%グレーから90%ホワイトの部分が人間の視覚に近い対数(Log)で処理することで、視覚的な情報量を失うことなく、データ量を削減できます。
ダイナミックレンジの確保:
暗部から明部までの広範囲な光の情報を、階調を圧縮しながらも維持できるため、後処理(ポストプロダクション)の際に、元来フィルムのネガ原版から上映用フィルムをプリントする際に、RGBの各フィルターの現像時間で色を調整する(カラータイミング)作業を、デジタル上で可能にしたデータ形式で、色調整の自由度が高まります。
そのままでは「不自然な」映像:
Log撮影で記録された映像は、そのままで見るとコントラストや彩度が低く、白っぽく見えている、いわゆる「眠たい」映像になりますが、カラーグレーディングによる編集・補正することで、見た目に近い理想の色やトーンに仕上げることが可能です。
Log撮影の背景
このようにCineon Logは、フィルムをデジタル化し、編集する過程を効率化するために生まれました。そしてこの技術は、その後の2010年代初頭から始まるデジタルシネマカメラの進化とともに、カメラ内に実装されるようになります。その後、カラーグレーディングソフトなどの発達とともに、Log撮影技術の発展の礎となり、現在のシネマカメラやミラーレスカメラに搭載される様々なLog形式(例:S-log、Canon Log、F-Logなど)の基礎となっています。