地方の課題をFireflyで生成したキャラクターで解決。和歌山市シティプロモーション課のユニークな事例
東京一極集中、地方の人口減少というのは、現在の日本が抱える大きな問題です。アドビは、クリエイティブが、そんな地方の課題を解決するひとつの力になると信じています。特に、誰でもプロンプトで操作可能な、アドビの生成AI 「Adobe Firefly」は、アイデアひとつで大きな変化を生み出せる可能性を秘めています。
和歌山市シティプロモーション課がFireflyで生み出した『和歌山市子』『和歌山城子』『加太鯛子』『和歌浦和歌子』『雑賀崎海老子』『山東竹ノ子』の6キャラクターは、生成AI時代の地方都市プロモーションにおいて、大きなヒントとなる事例です。
和歌山市市長公室 企画政策部 シティプロモーション課の辻本真生氏と、山本優氏に、この6キャラクター広告が生まれた経緯とその反響、そしてFireflyを活用して制作された広告をきっかけに、公式キャラクターとしてクリエイターに全身図などの展開を依頼する予定というこれからの展望について、詳しくお話を聞きました。
和歌山市市長公室 企画政策部 シティプロモーション課の辻本真生氏(右)と、山本優氏(左)
和歌山市は、まさに「クリエイティブで課題を解決すべき状態」にあった
住人の転出超過と、観光客誘致は地方自治体にとって大きな課題となっています。人口が減ると自治体としての活力が減ります。大学や就職先の有無やその魅力が、転出割合を左右するようです。観光地としての魅力も大切で、観光収入や地方としての魅力の有無も地域の繁栄、発展のためには大切なことです。
簡単にいえば、魅力ある地域であることをアピールして、多くの人に住んでもらい、継続的に関わってもらうことや観光に来てもらうことは、地方都市の存続において大きなテーマになっているということです。
和歌山市も例に漏れず人口減少という課題に取り組んでおり、これまで別のセクションで取り組んでいた、人口減少課題と、関係人口・交流人口の増加、地域の魅力の磨き上げや情報発信に包括的に取り組むために『シティプロモーション課』が新設されました。
「『和歌山って遠い』っていうイメージがあると思うんです」と辻本氏が和歌山市の抱える問題点について説明してくださいました。「でも、和歌山市は関空から電車やバスで約40~45分。JR大阪駅や南海電鉄なんば駅から特急電車で約1時間で着けます。そのことがあまり知られていないのが課題です。和歌山には『白浜』『高野山』『熊野古道』など魅力的な観光資源がたくさんあります。しかし現状、和歌山市はそれらの場所に行くための、『通過点』になってしまっています。そうではなく、和歌山市そのものが魅力ある『玄関口』であることを訴えていきたいんです」
歴史に詳しい方はご存じの通り、和歌山市は古来東西の海路の重要な中継地点でした。京都や大阪を出て江戸に向かう船は、紀伊半島を越える前に和歌山市に立ち寄ったものでした。豊臣秀吉の弟である豊臣秀長が築城し、後に紀州徳川家の居城となった和歌山城などの歴史的コンテンツも、海産物を中心とした『食』の魅力もあります。けれども、現状はそれが上手くアピールできていなかったかもしれません。まさにクリエイティブを用いて課題を解決すべき状態にあったのです。
安心して使える生成AIとして、Fireflyが浮かび上がってきた
シティプロモーション課が、そんな課題に取り組もうとしている時に大阪・関西万博があり、多くの観光客が訪れる新大阪駅のデジタルサイネージに広告を掲出しようということになりました。新大阪駅は関西エリアの玄関口のような場所です。
大阪・関西万博を契機に新大阪駅に掲出されたサイネージ
一番伝えたいのは『和歌山市は新大阪駅から約1時間で来れるんだよ』ということでした。掲出場所は非常に人通りの多い場所ですが、普通に書いただけでは伝わらないし、話題にならない。では、どうすればよいのでしょうか?
「担当であった山本が出した複数の広告案の中に、Fireflyでキャラクターを作った広告案がありました」と辻本氏。
「自分としては、『生成AIで作ったキャラクターでアピールなんて、やり過ぎかな?』と思っていました。でも、案を出した途端にみんなが『これだ!』と評価いただきました」と山本氏。
採用された広告案は、Fireflyで6つの擬人化キャラクター広告を作るというものでした。
和歌山市そのものや、和歌山城などの観光資源、加太や和歌浦、雑賀崎、山東などの特徴あるエリアをそれぞれキャラクター化し、地域にちなんだ名前を付けました。名前は、地域や名産の名前などをストレート過ぎるほど直接表現して、和歌山市のこと知らない人でも分かりやすく地域性が伝わるようにしました。関西風に言えば「ツッコミどころ」にしたわけです。
「キャラクターの画像を作る際、『安心して使える生成AIはないだろうか?』と調べたらFireflyが選択肢として浮かび上がってきました」
公共性の高い市役所の業務で使うから、権利的にクリアで、法的にも倫理的にも問題のないサービスである必要があります。
シティプロモーション課の辻本真生氏
Fireflyであれば、学習データはAdobe Stockや、著作権の期限が切れた写真など、完全に権利的に問題のない情報が使われており、市役所の業務に使用して問題のない透明性が担保されています。その点がFireflyを選んだ理由なのだそうです。すでに同市の広報広聴課では業務のためにAdobe Creative Cloudを契約しており、山本氏もスムーズにFireflyを使うことができました。
「まず、私が触ってみました。最初は今と違うビジュアルも生成されましたが、トライアンドエラーを繰り返しました。最初はザックリしたプロンプト(生成したい画像を説明する文章)を入れて画像を生成し、そこからプロンプトを細かくして、イメージに近づけていくという作業を行いました。6人のキャラクター広告としてシリーズ感を出すために、『全員着物』『名前をすべて『~子』で統一する』などのルールも設けて作り込んでいきました」
そうやってそれぞれ1枚ずつ、合計6枚の絵を作り込んでいったのだそうです。当時のFireflyではキャラクター性を保持したまま表情や姿勢を変えることができなかったので(『構成参照』という機能を使用すれば、生成した画像の構図を固定できます)、とにかくバストアップの1枚絵を完成させ、それに対して手作業で写真や文字を組み合わせていったのだそうです。
思い通りの絵を作るプロンプトを書くコツはあるのでしょうか?
「私も素人だったので、最初は『短文』を心がけました。『髪は◯◯色です。着物は◯◯色です。背景は◯◯です』といった具合に、曖昧さを極力排除した短い文章を並べていきました。他の職員が試した時、普段の話し言葉のまま長い文章で入れてしまって、うまくいかなかった例もあったので、『短く、はっきり』を意識しました」と山本氏。
広告案を制作した山本優氏
英訳しやすい日本語を入力していくのもスムーズに使うコツだといえるでしょう。
一番注意を払ったのは著作権の問題
最初の生成結果では、着物の襟のカタチや、ウサギの耳が不自然だったりしたので、一部Adobe Photoshopで手作業で修正したとのことです。Fireflyだけでは完結させず、そのあと少し手作業で修正しているというわけです。
もちろん、Photoshopの技術も必要になりますが、最新のPhotoshopはチュートリアル機能も充実しているので、未経験の方でも案外なんとかなります。
生成AIであるFireflyを仕事で使う時に、一番気をつけたことは何なのでしょうか?
「それはやはり著作権問題ですね」と山本氏。「一般の人の認識としても、そこへの不安が一番大きいと感じました。Fireflyは『商用利用可能』と明示されているのが大きな安心材料になりました」
それでも『生成AIに対して批判的』という人は一定数いらっしゃるそうです。そういう方々にも配慮は必要です。実際にこの広告を出稿し、話題になってからも10件程度の意見が和歌山市に寄せられたといいます。
反響が大きかったことで、イラストレーターへの発注が実現
大阪・関西万博のさなか、新大阪駅にデジタルサイネージが掲出されると、シティプロモーション課には、メディアを中心にこれまで経験したことのないような大きな反響が返ってきたそうです。万博会場で配ったキャラクター広告を掲載したPRたちのカードはあっという間に底をついてしまいました。
大阪万博で配布された、キャラクター広告を掲載したPRカード
「新聞等に取り上げていただいたり、地元テレビ局から『特集を組みたい』という連絡がありました」と辻本氏。
新大阪駅のデジタルサイネージだけではなく、市の施設にもポスターを貼っていますが、それを見た市民の方から「めっちゃ面白い」「友達がSNSに上げてた」「会社の同僚が息子に画像を送ってた」というような声も上がったのだそうです。
反響を受けて、9月の議会で予算が下りたので、キャラクターの全身絵などをコンセプトはそのままにイラストレーターに頼んで一から描いてもらえることになったそうです。
Fireflyで生成されたキャラクターは、上半身の一枚絵しかないのですが、今後イラストレーターが他の向きも含めた全身絵を描くことになります。現状、彼女たちがどんな帯を締めて、どんな立ち姿をしているのかは分からないのです。そのあたりを含めて、イラストレーターの方とキャラクターを作り込んでいくことになるのでしょう。
「イラストレーターさんの仕事を奪うことになるのではないかとご批判もあるのですが、今回はあくまで彼女たちを創作するきっかけとしてFireflyを使いました。今後の展開にはイラストレーターさんにご協力いただくことになります」
イラストレーターの事業者は現在選定中だが、「和歌山市をまったく知らない方よりは、ある程度ご存じの方に描いて欲しいと考えています」とのこと。
アドビとしても、Fireflyはあくまでツールであると考えています。アイデアをカタチにするためのアシスタントであって、Firefly自体が創作するわけではありません。アドビは現在もFireflyの学習元になったAdobe Stockの作品の作者に、貢献度に応じてボーナス還元をしています。クリエイターさんに利益をお返しするということです。
クリエイティブのはじめの一歩にFirefly
「来年度は、予算を元にイラストレーターの方に描いていただいた各地域のキャラクターを活用して、地元の人にも愛される存在にしていきたいと思っています」と、山本氏。
全身像やさまざまな角度の立ち絵を用意して、「ラーメン屋さんで」「土産物屋で」と、市内の事業者の方に自由に使っていただける仕組みを整えていくつもりなのだそうです。
アニメ風のキャラクターなので、いわゆる「オタク界隈」の人たちにも届きやすいでしょう。まずは、ノベルティを作ったり、ウェブサイトやSNSで発信したりしたい、と市は考えているとのこと。「すでに『コスプレをしたい』との声も上がっています。正々堂々と使えるキャラクターを目指していきたい」と語ります。
Fireflyは決してエキスパートの方だけのためのツールではありません。「アイデアはあるが、クリエイティブのリソースがない」というような時にも、まさにFireflyは大きな力を発揮します。始めの一歩を踏み出せれば、そこから展開していく方法は見つかるはずです。Fireflyであなたのイメージをカタチにしてみましょう。思いがけないクリエイティブの世界が広がっていくはずです。