《 生成AI × ゲーム業界 》 “同じ目線”で描くゲーム制作と生成AI

2025年11月20日、アドビ東京オフィスのPanorama Squareにて、「Adobe Firefly Meetup 2025 EXTRA #2 《ゲーム業界篇》〜“同じ目線”で描くゲーム制作と生成AI」を開催しました。

本ミートアップは、ゲーム制作の現場で生成AIを活用するうえで避けて通れない「ガイドライン」「ガバナンス」「トレーサビリティ」といったテーマを、業界横断で語り合う場として企画されました。

国内の大手ゲームスタジオから、生成AI担当役員、プロデューサー、テクニカルアーティスト、リードデザイナー、クリエイティブディレクターなど、多彩なバックグラウンドを持つメンバーが集結。オープニングトーク、パネルディスカッション、ライトニングトーク、事例セッション、ワールドカフェ形式のラウンドテーブルまで、インプットと対話が行き来する濃密な時間となりました。

本記事では、当日のモデレーター・スピーカーの発言や、参加者のディスカッションから得られた気づきや課題をアドビ 三好が振り返ります。

もくじ

  • 開催背景と目的
  • アドビが目指す「説明可能な生成AI」環境
  • ゲーム業界のための生成AI活用ガイドライン原則はつくれるか?
  • トレーサビリティと仕組み化への具体的なアプローチ
  • ライトニングトーク:ゲームスタジオにおける「現場での試行錯誤」
  • ワールドカフェ:6つのテーマで掘り下げた“同じ目線”
  • ゲームの「密度」とクリエイターの力を高めるために
  • おわりに:業界で“同じ目線”をつくるために

開催背景と目的

ゲーム制作と生成AIの“向き合い方”を言葉にする

株式会社Cygames エンジニア2部 / AIテクノロジー 専門役員 金井 大 氏

オープニングを務めたのは、株式会社Cygames エンジニア2部 / AIテクノロジー 専門役員の金井 大 氏。

金井氏から共有されたのは、このミートアップに込められた率直な問題意識でした。近年、著作権やデータの取り扱いを含め、生成AIを巡ってさまざまな懸念や議論が交わされています。ゲーム業界においても、生成AI活用に対する見方は一様ではなく、慎重な姿勢をとる企業・ユーザーも少なくありません。

その一方で、多くの企業は、法令や各社ポリシーを踏まえながら、社内ルールやガイドラインを整備しつつ、どのような範囲であれば、ユーザーや社会ときちんと向き合いながら活用できるのかを模索し続けています。

ただ、その取り組みや考え方を「自社だけで」「いきなり外向けに」語ることには慎重にならざるを得ない。

そうした背景もあり、今回のミートアップは、

生成AIとゲーム制作の関係について、法令やガイドライン、業界動向を踏まえながら、「どのような向き合い方が望ましいのか」を落ち着いて話し合うための“ステップ”となる場

として位置づけられています。

特にゲーム業界では、

など、考慮すべき要素が多く、「一社だけで決めて、一社だけで声を上げる」のが難しい領域です。

そのため今回のミートアップでは、

といったテーマについて、建設的かつ率直に意見交換できる場として設計されました。

アドビが目指す「説明可能な生成AI」環境

オープニングの問題提起を受けて、続くセッションでは私、三好から、Adobe MAX 2025で発表したAdobe Firefly関連のアップデートと、エンタープライズ企業向け生成AI環境の方向性を紹介しました。

Adobe Firefly 関連の最新情報をご紹介

ここでのテーマは、コンテンツが爆発的に増える時代に、どのように安全性と“説明可能性”を両立させるかという点です。

安全性と説明責任を前提にしたAdobe Firefly

Adobe Fireflyは、リリース当初から「商用利用を視野に入れた生成AI」として設計されており、とくに次のようなポイントを特徴として紹介してきました。

こうした設計思想は、今回のミートアップで繰り返し語られた

「プレイヤーや社会から見ても、納得感のあるかたちで生成AIと向き合いたい」

というテーマとも通じる部分です。

Adobe Firefly カスタマイズの深化

Adobe Firefly Foundryとクラウド連携の方向性

あわせて、Adobe MAX 2025で発表されたAdobe Firefly Foundryの構想にも触れました。

Firefly Foundryでは、クラウドプラットフォームとの連携も視野に入れつつ、

といった方向性が示されています。

詳細な技術構成や運用形態については今後さらに情報が整理されていきますが、セッションでは

「どのモデルを、どのような前提・条件のもとで、何に使うのか」

を説明しながら運用できる環境づくりを目指している、という点を共有しました。

この後に続くパネルディスカッションでは、各社が「どんな原則で生成AIを使うべきか?」を議論していきますが、アドビセッションはその前段として、そうした原則を現場で運用していくために、どのような技術的な土台が必要になりそうか、を提示する位置づけとなりました。

ゲーム業界のための生成AI活用ガイドライン原則はつくれるか?

ミートアップの中心となるパネルディスカッションでは、ファシリテーターとして株式会社サイバーエージェント ゲーム事業部 AI戦略本部 テクニカルアーティスト/クリエイティブディレクター/AIストラテジストの嶋田 豪介 氏が登壇。

業界で“同じ目線”をつくる — ゲーム業界のためのクリエイティブ生成AI活用ガイドライン原則はできるのか?

パネリストとして、以下の4名(うち1名は匿名希望)が参加しました。

テーマは、「ゲーム業界のためのクリエイティブ生成AI活用ガイドライン原則」はできるのか?です。

1. 生成AIの“使いどころ”と線引き

最初の論点は、「どこまで生成AIを使うのか」という“使いどころ”でした。

各社の状況やスタンスはさまざまですが、ディスカッションの中では、次のようなポイントがあげられました。

ディスカッションの中では、「生成AIの出力をそのまま用いるというよりは、あくまで検討素材やたたき台として扱い、最終的な表現は人が責任を持って整えていくべきではないか」といった考え方も共有されました。

2. 業界共通の「ガイドライン原則」はつくれるのか?

本題である「ガイドライン原則」については、議論を通じて次のような整理が見えてきました。

一方で、パネル全体としては、単一の“完璧な業界ガイドライン”を一気につくるのは現実的ではない、という認識で概ね一致しました。

などによって、前提条件も、許容できるリスクの幅も大きく異なるためです。

そのため、パネリストからは、

といった、段階的・ボトムアップに近いアプローチが現実的なのではないか、という意見が示されました。

パネルディスカッションで議論された主なトピック

パネルディスカッションで共有された「ガイドライン」や「トレーサビリティ」への取り組みの一例として、続くセッションでは国内ゲーム会社の事例が紹介されました。

トレーサビリティと仕組み化への具体的なアプローチ

パネルでは、各社それぞれのガイドラインやトレーサビリティへの向き合い方が語られましたが、その中である国内ゲーム会社がどのような体制・仕組みでこの課題に取り組んでいるのかを、具体例として紹介したのが本セッションです。

このセッションでは、生成AI活用における組織構造と、その役割について共有されました。

1. 委員会+専門部署という組織構造と研究開発の取り組み

この事例紹介では、2つの組織が生成AI活用を支えています。

  1. 生成AI活用に関する横断組織
    1. 委員会活動を主軸とし、各部門からメンバーが参加
      1. 全社ルールやガイドラインの策定
      2. 利用相談窓口としての役割
  2. AI技術に特化した専門部署
    1. LLMや強化学習など、AIに関する技術全般を専門的にリード
    2. 社内利用を前提としたAIチャットbotなどのサービスを開発
    3. 生成AIを安心・安全に使うための研究開発

横断組織だけではカバーしきれない技術的な深さを、AI技術の専門部署が支え、生成AIを安心・安全に使うためのシステムの研究に取り組む。

これらの仕組みは、リスクを完全に排除するものではなく、あくまで人による判断を支援し、見落としを減らすためのものとして設計されています。

2. 生成AIを安心・安全に使うための研究開発

次に具体例として紹介されたのが、生成AIを安心・安全に利用するためのシステムに関する研究開発の取り組みについてです。

生成AIの出力をトレーサビリティの観点で保全し、またそれらの出力に対して既存IPとの類似度や想定外の要素が紛れ込んでいないかのチェックができれば、確認を行うスタッフの作業負荷を下げることができます。

これらのシステムの実現可能性について、実際に開発中のシステムの紹介とともに、その構成と開発における課題に関する具体的な説明が行われました。

ガイドラインは「策定した瞬間」がスタートラインにすぎません。

それを現場の運用として定着させるには、

の三つが揃って初めて機能する。

あくまで一つの実践例ではありますが、パネルで議論された原則を現場運用に落とし込む際の参考ケースとして紹介されました。

ライトニングトーク:ゲームスタジオにおける「現場での試行錯誤」

続くライトニングトーク(LT)では、以下の3名から、それぞれのプライベートワーク等での取り組みや考え方が共有されました。

「DIYワークにおける映像制作とゲーム開発の話」を発表するNiantic 長舩氏

セガ:既存アセットを起点にしたアイディア検討のワークフロー

セガの尾崎氏・安倉氏からは、すでにゲーム内で展開されている多様なコスチュームや武器などのアセットを題材に、生成AIをアイディア検討の一助として位置づけるワークフローの検証事例が紹介されました。

といった考え方が示され、「人の制作プロセスを前提にしつつ、前段の検討・発想をどう広げるか」という視点が印象的でした。

セッション内では、

「プロンプト一発で“完成品”を出そうとするのではなく、描ける人ほどAIを使いこなせるようになるのではないか」

といったコメントも紹介され、テクニカルアーティストやリードデザイナーが、ツールの“利用者”であると同時に、“使い方をデザインする役割”も担っている姿が浮かび上がりました。

Niantic:DIY的な検証とナレッジ共有

長舩氏から、テクニカルアーティストという立場から、業務外の個人プロジェクトで以下の領域における生成AIの可能性を探っている事例が紹介されました。

  1. まずは小さなスケールで試し、挙動や手応えを確かめてみる
  2. うまくいったプロセスは、チームでも再現できるよう整理して共有する
  3. うまくいかなかったケースも含めて、検証のログとして残しておく

といったスタンスは、「現場からボトムアップで生成AIの解像度を上げていく」プロセスの一例として、参加者の共感を集めていました。

ワールドカフェ:6つのテーマで掘り下げた“同じ目線”

イベント後半は、参加者全員がテーブルごとに分かれて議論するワールドカフェ形式。

テーブルごとに議論して得た知見やヒントをみなさんと共有しました

「ガイドライン → 仕組み化 → 現場の実践」という流れでインプットを共有した後、最後はそれぞれの現場に引き寄せた“自分ごと化”の時間です。

テーブルには、次のようなテーマが用意されました:

最後には各テーブルから1名ずつが全体共有を行い、議論で見えた論点や気づきを紹介しました。

A:アセット管理とトレーサビリティ

このテーブルでは、今までの事例を踏まえながら、

といったテーマが議論されました。

「このような仕組みは、もはや一社の課題ではなく、業界全体の“インフラ”になりうるのではないか」という声も上がり、ガバナンスを“業務フローの一部”にしていくことの重要性が再確認されました。

B/C:ワークフロー設計とガバナンス・運用・承認プロセス

ワークフローとガバナンス系のテーブルでは、

といった、非常に具体的な論点が交わされました。

ここでも、「ガイドラインを作るだけでは足りず、承認プロセスやツールを含めた“設計”が必要」という認識が共有されました。

D:社内への情報発信と認知獲得アイディア

このテーブルでは、「どうやって社内の温度を揃えるか」がテーマに。

など、「とにかく“読まれる・見られる”形式にする工夫」が多く挙げられました。

象徴的だったのは、

「デザイナーに長い文章のガイドラインPDFを送っても読まれない。だったら、4コマ漫画にしてみる」

という声。

ガイドライン=お堅い文書、ではなく、日々の仕事の中で“思い出せる形”にする工夫が求められていることがよくわかるエピソードでした。

F:安全な生成AI活用範囲の“最大公約数”づくり

最後に、「どのモデルから使い始めるべきか?」という問いに対しては、

といった方向性が共有されました。

ここでも判断軸になっていたのは、「説明できるかどうか」というポイントです。

技術的な性能だけではなく、ユーザー・社内・社会に対して説明責任を果たせるかが、生成AIモデル選定の重要な基準になりつつある。そんな空気を感じるセッションでした。

ゲームの「密度」とクリエイターの力を高めるために

クロージングでは、再びCygamesの金井氏が登壇し、今回のミートアップ全体を振り返りました。

とくに印象的だったのは、次のようなメッセージです。

今回のミートアップは、

という構造で設計していました。

それはまさに 「一社で完璧な答えを出す」のではなく、業界で“同じ目線”を少しずつ揃えていく ためのプロセスそのものだったと言えます。

おわりに:業界で“同じ目線”をつくるために

ゲーム制作と生成AIの“これから”を共に考え、試し、言語化していくための継続的な“実験の場”を目指して

本ミートアップを通して見えてきたのは、ゲーム業界における生成AI活用が単なる「興味関心」や個別の「お試し」にとどまらず、

といった、多層的なテーマを視野に入れながら検討が進みつつある、ということでした。

その中で繰り返し語られたのは、

といった思いです。

Adobe Firefly Meetup《ゲーム業界篇》は、こうした議論を「一過性のイベント」で終わらせるのではなく、ゲーム制作と生成AIの“これから”を共に考え、試し、言語化していくための、継続的な“実験の場”でありたいと考えています。

今後も本シリーズを通じて、ゲーム業界のみなさまとともに、より良い“同じ目線”をつくっていければ幸いです。