素材がないときはタイポグラフィーで勝負。MdNデザイン制作部のAdobe Fonts活用術|Adobe Fonts×Creators 02
アドビのクラウドフォントサービス「Adobe Fonts」の書体を使い、クリエイティブな活動を繰り広げる人たちにフォーカスする企画「Adobe Fonts × Creators」。第2回目は、デジタルクリエイティブ黎明期から数多くのデザイン本を手がけてきた株式会社エムディエヌコーポレーション(以降MdNと表記)にインタビュー。デザイン制作部の赤松由香里さんと田中聖子さんに、日々、どのようにフォントを扱い、Adobe Fontsを活用しているのかを伺いました。
左:赤松由香里さん/右:田中聖子さん
デザイン、ITから料理、音楽まで幅広くデザインを手がける
-MdN デザイン制作部の仕事内容について教えてください。
赤松「MdNのデザイン制作部はもともと、1989年に創刊された雑誌『MdN』を制作するための部署でした。2019年に『MdN』が休刊になってからは、社内の書籍や販促物、同じインプレスグループの会社が発行する雑誌や書籍のデザインを担当するようになりました。
MdNが刊行する本はデザイン、IT関連が中心ですが、グループ会社にはリットーミュージック、山と渓谷社などがあるので、音楽、自然、料理等、いろいろなジャンルの仕事をしています」
田中「担当する範囲は本によってさまざまで、デザインから依頼されることもあれば、外部のデザイナーさんが作ったフォーマットをもとに、DTPだけ担当することもあります」
-デザインに使用するアプリケーション、フォント環境について教えてください。
赤松「メインで使うアプリケーションは、Adobe Photoshop、Adobe Illustrator、Adobe InDesignです。書籍の場合、中面はInDesign、表周りはIllustratorで作っています。
フォントはモリサワのMorisawa Fonts、MonotypeのフォントワークスLETSに契約していますが、DTPを外にお願いする場合は相手が持っているフォントに合わせる必要があるので、モリサワフォントを使うケースがほとんどです。
表紙タイトルに手元のフォントではできないような変化をつけたいとき、デザインにあしらいや飾りを加えたいときには、Adobe Fontsからイメージに合うフォントを探していますね」
本の内容、タイトル、イメージに合った書体選び
-Adobe Fontsのフォントを使ったデザインをご紹介ください。
赤松「『神様とつながる手相』は、『神様/手相』の文字に AB-Aki 、『と/つながる』には 砧 丸丸ゴシックB Lr、『1日10秒手を見るだけ』には 砧 丸丸ゴシックA Sr を使っています。
デザインを考えるにあたって、神様とつながる縁=糸が巻いているようなフォントがないかと探していたところ、Adobe Fontsで見つけたのがAB-Akiでした。ただ、タイトルすべてをこのフォントにしてしまうと読みにくくなってしまうため、キーワードの『神様/手相』だけにこの書体を使い、それ以外の文字には砧 丸々ゴシックを組み合わせることで、手に取りやすい本に仕上げました。『神様/手相』の文字はフォントの文字そのままではなく、太さやかたちに微調整を加えています」
『1日10秒手を見るだけ 神様とつながる手相』著:相原康人/発行:MdN(2024)
赤松「『男の!ダメすぎメモリーズ』は、最初、全体をMorisawa Fontsの秀英にじみ四号太かなで組んでみたのですが、どうもふつうになってしまって。もっとダメさを出すために『ダメ』の文字を ヒグミン にじみ に変えています。ヒグミンは文字の並びによってかたちがかわるので、2種類の『ダ』と3種類の『メ』からイメージに合うものを選び、タイトル全体を平体にして組んでいます」
『男の!ダメすぎメモリーズ』著:掟ポルシェ/発行:リットーミュージック(2025)
田中「『音楽未来会議』は、著者3名が音楽の未来について語り合う鼎談をまとめた本です。『音楽/未来』というテーマに合うフォントとしてAdobe Fontsから選んだのが AB-koki です。
こうしたドット風フォントはこれまでにもありましたが、AB-koki は細かいところまで作り込まれている点も、選んだポイントです」
『音楽未来会議~4つのテーマで読み解く「これまでの10年」と「これからの10年」著:柴 那典、山口 哲一、脇田 敬/発行:リットーミュージック(2025)
赤松「『Laravel』はプログラミングの本ということもあり、具体的なビジュアルイメージが湧きにくいテーマでした。Laravelのロゴやwebサイトを見てみると、立方体がモチーフとして使われていたので、この本でも立方体と色面を使ってデザインできないかと考えました。
フォントもそれに合わせて、クールでスマートなイメージを出したかったのですが、あまり硬い書体にはしたくなかったので、DINのような整った印象を持ちつつ、角の取れた Kiro を採用しています」
『プロフェッショナルWebプログラミング Laravel』著:久保田 賢二朗、荒井 和平、大橋 佑太/発行:MdN(2022)
赤松「『野菜でととのうビーガンレシピ』のタイトルでは、貂明朝テキスト を使っています。ヴィーガンのレシピなら、明朝系がイメージに合うので、いろいろと試してみたのですが、そのなかで『ととのう』の『と』の文字のかたちや、表紙の人参のイメージとぴったり合ったのが貂明朝テキストでした。貂明朝は、明朝体では細くなりがちな横画にもしっかり太さがあるので、こういうタイトルには使いやすいですよね。サブタイトルの『一汁一菜〜』には、砧丸明Yoshino を組み合わせています」
『一汁一菜から始める 野菜でととのうヴィーガンレシピ』著:中島芙美枝/発行:山と溪谷社(2023)
田中「MdNでは本のほか、毎年25〜30種類のカレンダーを発行していて、社内で制作するものは、私がまとめてデザインを担当しています。
『日本の愛らしい犬カレンダー』は、和に寄りすぎないイメージにしたいという要望があったので、日本語タイトルでは和の雰囲気を出しつつ、欧文フォントで変化をつけようと考えました。
選んだのは、少しクラシカルな印象の Gyst Variable というバリアブルフォントです。動物カレンダーはかわいさを押し出したデザインが多いので、フォントでオリジナリティを出すことで、そうした売り場でも埋もれず、差別化することができたんじゃないかと思っています」
『2026 日本の愛らしい犬カレンダー』編:MdN編集部/発行:MdN(2025)
田中「カレンダーで使って、印象がよかった Gyst Variable は2026年のMdNの年賀状でも使いました」
赤松「『MdNデザイナーズファイル2026』25周年記念冊子は、書店配布の販促ツールとして作られたものです。タイトルの書体は『25』だけ Bio Sans、そのほかの文字には Korolev を使っています」
左:MdN年賀状/右:『MdNデザイナーズファイル2026』25周年記念冊子
素材がなくてもタイポグラフィーでデザインはできる
-デザインをするうえで、Adobe Fontsにどのようなメリットを感じていますか。
赤松「フォントが増えれば増えるだけ、表現の幅が広がりますから、自由に使えるフォントがたくさん揃っているAdobe Fontsには本当に助けられています。
ただ、選択肢が多すぎて逆に迷ってしまったり、お気に入り登録/アクティベートしたフォントが増えすぎて使いたいフォントがすぐに見つからなかったり……使えるフォントが多いからこその悩みもあって(笑)。フォントをフォルダ分けして登録できるIllustratorの新機能を活用して、うまく整理できたらいいですね」
田中「これまで印刷会社にネイティブデータで入稿する場合、Adobe Fontsのフォントは基本的にアウトライン化する必要がありました。雑誌の中面では使いたくても使えないということもありましたが、PDF入稿になってからはアウトライン化の必要もなくなり、Adobe Fontsのフォントがさらに使いやすくなりましたね。
印刷会社に修正をお願いすることはできない/印刷用PDFをこちらで作らないといけない、という工程の変化はありますが、しっかりとデータを管理さえすれば、入稿作業もシンプルでスムーズになったと感じています」
赤松「Adobe Fontsやフォントサブスクのおかげで、デザインで使える書体はいま、本当にたくさんあります。そうした環境のなかで、ついいろいろな書体を使ってしまうのは、雑誌『MdN』時代にモリサワの中ゴシックBBBや見出ゴMB31ばかり使っていた、その反動かもしれません(笑)。
Helvetica、Futura、DINのような定番書体もいいのですが、一文字単位で見ると好みじゃないかたちのものが混じっていたりします。Adobe Fontsでそうしたフォントに近いイメージを持ちつつ、ディテールが好みに仕上がっているものを見つけるとうれしくなるんですよね。
文字組み中心のデザインで勝負する場面で、書籍の内容やタイトルイメージにあったフォントを選ぶ際、Adobe Fontsのフォントはすごく頼りになる存在なんです」
赤松さんオススメ Adobe Fonts
- 砧 iroha 26tubaki …雑誌インタビューのセリフキャッチなど、柔らかい印象を与えたいときに。
- 貂明朝テキスト … 書籍タイトルなどで少しかわいらしさやクセを出したいときに。
- 源ノ角ゴシック …雑誌の表紙タイトル、コンテンツなどに。カタカナが多いタイトルの密度をあげたいとき、極太な印象を与えたいときにも。
- Kiro … web関連、アプリ関連書籍、商品のモデル名などに。文字が縦長なので長いモデル名でも対応しやすい。
- Montserrat … 表紙タイトル、雑誌の扉タイトルまわりなどに。シンプルにカチッとまとまった印象をだせる。大文字のフォルムがきれいで安定感がある。
- Mittwoch … 装飾感、存在感があり、リッチでモードな印象に仕上がる。ファッション系や製品名などに。
田中さんオススメ Adobe Fonts
- りょうゴシック PlusN … クリーンな印象で、個性的なフォントと組み合わせても整った印象を保てる書体。
- ADS マンボ … やわらかな表情を活かし、エッセイ本の吹き出しなどにポイントで使用。
- Sic竹ほっと … これまでの手書きフォントにはない味わいが好み。ライフスタイルやエッセイ本でポイントとして活用。
- Gyst Variable … 洗練されたなかにエッジを感じさせる書体。MdN年賀状ではアート性を意識して使用。
- Broadacre … さりげないアクセントとして、エッセイ本や音楽雑誌の誌面などに。
- Greycliff CF … 技術系の専門書の見出しで、情報を強く・クリアに見せたい場面で使用。
株式会社エムディエヌコーポレーション
web|https://books.mdn.co.jp/
デザイン制作部|https://mdndesign.tumblr.com/