「2010 年から 2020 年の間には、2D のデジタルスケッチから 3D デザインへの大きな転換がありました。また、サーバーやデスクトップに画像を保管する代わりに、本格的なデジタルアセット管理システムが生産ラインのデータと組み合わせて使われるようになりました。これからの 5 年間は、マーケティングやバーチャルストア用の素材が、現在使われている単純な 3D 画像から、本物の製品写真のようにリアルな 3D 表現へと変わると思います。クリエイティブプロセスの初期段階にもその影響は及ぶでしょう」と Geluk は続けます。
INDG が作成した写真のようにリアルな New Era Cap の 3D ビジュアル
ニューヨーク州バッファローに拠点を置く New Era Cap は、2020 年に INDG をパートナーに迎えてデジタル化の旅に乗り出しました。New Era Cap の画像システムには、高品質の本物のような 3D 製品画像が既存の 2D のイラストの代わりとして、実際の製品が存在する前から配置される予定です。INDG が制作する 3D アセット は、キャップの形状やフィット感に始まり、すべての New Era Cap 製品に施された美しい刺繍の素材や糸の質感に至るまで、製品のあらゆる細部にこだわって注意深くデザインされています。
INDG が素材や刺繍にこのレベルの詳細を実現する上では Adobe Substance のツールキットが重要な役割を果たしています。Substance のおかげで INDG は New Era Cap の大規模な製品ポートフォリオのデジタル化プロジェクトに、驚くほどリアリティのあるテクスチャを実現するプロセスを完全に統合できました。
New Era Cap の CIO を務める Lorenz Gan は次のように話しています。「100 年以上の伝統を誇る New Era Cap は、この数年間ビジネスを劇的に近代化する大胆な変革に取り組んでおり、顧客体験、デジタルコマース、そして商品生産の領域で果敢な躍進を達成しています。年間 6 千万個以上のキャップを生産する会社にとって、コンセプトをアートワークとして完成させるという昔ながらのプロセスは、大幅な効率化が必要な時期を迎えていました。そこで INDG の登場です。明らかに業界最高峰の企業である INDG は、製品を市場に送り出す新しいプロセスを構築する過程で 3D の実用性についてのあらゆる懸念をあっという間に完全に打消し、納品のスピード、さらに完成品の品質や卓越性で私たちを圧倒しました。まさに企業に変革をもたらす存在と言えるでしょう」
デジタル化により得られるもの
INDG は 3D 表現を利用することによりもたらされる 5 つの主要な利点を特定しています。その範囲は、初期のデザイン決定から、マーケティングや小売に至るまでのサプライチェーン全体、そして最近の多くのブランドにとっての重要事項であるサステイナビリティに及びます。
3D の主なビジネスケースとメリット(独立した第三者機関による調査)
3D ビジュアルには明らかに大きなメリットがあります。製品写真をデジタル画像に置き換えることで、企業は費用のかかる写真撮影や物理的な商品サンプルを用意する必要性を減らせます。既にイケアはカタログの 75%以上をデジタル画像に置き換えています。また、本物の写真のようにリアルな画像に基づいて初期のデザインに関する判断を行うことで、資源の浪費につながる物理的なプロトタイプへの依存度を下げられます。
「3D と従来の写真のどちらかを選べる時は、基本的に 3D を選びます。もちろん、写真では優れたビジュアルを得られないと言っているわけではありません。むしろその反対です。ただ、最終的なビジュアルで同レベルのクオリティを得ようとすると、3D は大幅な時間の削減になるのです」と 3D デザイン、写真、アートディレクションが専門のフリーランスクリエイターである Clément Bourcier は話します。
また、試作品のデジタル化は製品開発サイクルの短縮に貢献します。「ひとたびビジュアルアセットを作成すれば、他の部門との共有はとても簡単です。離れた場所の相手でも大丈夫です。物理的なサンプルではそうはいきません」と Kontoor Brands でパターン部門のマネージャを務める Robert Garner は同社の Wrangler と Lee ジーンズブランドについての取材で語りました。「3D デザインがあれば、開発プロセスの早期から全員とデザインを共有して透明性を高められ、判断をより素早く行えるようになります」
この革新的な新しいテクノロジーのメリットを最初に享受してきた企業の多くは、小規模で小回りの利く新興ブランドです。Digi Denim をデザインした Paras Gupta は、サステイナビリティの問題に取り組むために水も自然の素材も一切使用しない 3D のデニムコレクションを作成しました。彼はプロジェクトを実現するための 3D 素材を Substance スイートに求めました。
Gupta は次のように語っています。「私が 3D デザインを始めたとき、そのスキルを私のデニムの知識と組み合わせたのはごく自然な選択でした。私はバーチャルな世界にリアルタイムでデニムをつくろうとしましたが、初めてのデジタルのデニムジーンズでは、本物のジーンズらしく見せることに苦労しました。そのため、バーチャルデニムの作成に最適なツールを探すことになりました。そうして Substance にたどり着いたのです」
といっても、ワークフローのデジタル化はスタートアップ企業の専有物ではありません。先駆けとなった企業の中には多国籍企業もあります。国際的シューズメーカーのアディダスは 2007 年に 3D デザインへの取り組みを開始し、2015 年には年間 5 万のバーチャルアセットを作成するまでになりました。他の国際的ブランドも同様の成功を狙っています。
PUMA グループでスポーツスタイルシューズデザイン部門のトップを務める David McKenzie は次のように話しています。「デジタルデザインは 部門を超えたコラボレーションの機会をさらに広げ、デザインと顧客をより近づけるチャンスを捉え、PUMA 社内の技術と創造性を強化します。また、日々の革新を通じてストーリーを語るという PUMA の豊かな伝統との親和性に関しても、胸の高鳴るような利点を 3D は持っています」
その解決策は、思っていたより身近なものかもしれません。従来からデザイナーとして働いている人たちが、個人的なプロジェクトとして 3D ツールに取り組んでいるからです。サプライチェーンのコンサルティング会社 Weave の調査では「98%の人材は業界内に見つかっていて、他の分野やテクノロジー企業からの転職ではない」ことが示されています。
さらに、デジタル化されたパイプラインの導入に必要な資金面の負担を現実的に捉える必要があります。Weave の調査では、回答者の 30%が 3D 技術を採用してから 12 カ月以内に投資効果が得られるだろうと予測していますが、実際に 3D の導入に成功したリーダー達は 36〜48 カ月程度かかかることを理解しています。
そして、最終的にデジタル技術の導入を阻む最大の要因は、変化への対応それ自体です。「3D の使用を恐れている多くのデザイナーに会いました。その主な理由は、居心地の良い環境を変えたくないこと、大学で学んだ手書きスケッチやソフトウェアに慣れていること、そして 3D への移行がプロセスを煩雑にする可能性があることです。その他にも、3D がデザインツールとして持つ力を捉えられないデザイナーがいます。3D とは何で、3D で何ができるのかを理解していないために、たまたま 3D という追加のスキルセットを持っているデザイナーを、クリエイターではなくモデラーとして対応する場面をたくさん見てきました」とナイキとアディダスでプロダクトデザイナーとして働いた経験を持つ Hussain Almossawi は語ります。
まず、扱いやすい対象を探しましょう。たとえば、形状や飾りをマイナーチェンジする製品です。色、グラフィック、素材だけを変更するのであれば、高品質な 3D 表現をつくることが容易になります。3D による製品の仮想化は、製品サンプルの数と承認にかかる時間を減らせるため、コスト削減という目に見える ROI を短期間で実現します。これはパートナー企業とも共有できるメリットです。
Adobe Substance で制作された製品ビジュアル
次に、改革をリードする役割として、すでに 3D 技術の経験があり、熱意を持っているスタッフを探しましょう。加えて、賛同者の拡大や予算承認を促進するリーダーも必要です。Weave の調査には、「3D の採用規模を拡大しようとしている企業の 40%が、経営層の関与がプログラムの推進に重要であることを指摘した」と書かれています。
技術に精通したスタッフにプロジェクトの一部の管理権限を与えれば、情熱的な改革の提唱者を生み出せます。アディダスのデジタルワークフローへの取り組みについて、同社がすべての部門に 3D テクノロジーの導入管理を目的にした小部隊を設置したとSourcing Journal は紹介しています。