読み手に合わせてフォントをパーソナライズすることが望ましい理由

出典:Adobe Stock / wagoo

メール、スライド、あるいはドキュメントを受け取って、送り手の書式の選択に真剣に疑問を持ったことはありませんか?たとえば、フォントが小さすぎたり、装飾が過剰だったり、あるいはただ単に読みにくかった場合です。その際、タイポグラフィの選択が読みやすさに与える強い影響を感じていたかもしれません。3 年にわたる調査・研究を経てアドビが理解したことは、読む行為における個人差がいかに大きいか、理解の仕方がいかに一人ひとり微妙であるか、そしてまだ答えの見つからない疑問がいかに多いかということです。

ACM の Transactions on Computer Human Interaction (TOCHI)に掲載されたアドビの最新の研究論文では、フォントの選択が、一般成人がテキストを読む際のパフォーマンスに与える影響を調査しています。アドビ・リサーチのインターンで筆頭著者の Shaun Wallace と、彼の共同執筆者達は、コミュニケーションにおいてフォントがいかに重要であるかについて、多くを考察しています。この論文は最近、Fast Company の「Are Some Fonts Ageist?」)や、Nielson Norman Group「Best Font for Online Reading: No Single Answer」でも取り上げられました。

注:以下の論文はフォントについて研究したものです。書体とは混同しないでください。書体は、同じデザインを共有する記号や文字や数字のグループです(例えば、Times New Roman)。フォントは、「16pt で太字の Times New Roman」のように特定のスタイルの書体です。

フォントを変更するだけで驚異的なスピードアップ

この調査は、18 歳から 71 歳までの多様な背景を持つ 352 人の参加者を対象に行われました。そのうちの 46% が女性、22% がバイリンガルで、全員が問題なく英語を読めると自己申告しています。この研究では、16 種類の一般的な書体を取り上げて、読む速度、好み、理解度のスコアを測定しました。使われた測定方法は、検眼士の視力検査にヒントを得たものです。検眼士が文字を回転させて「どちらが読みやすいか」を尋ねるように、フォントを交互に切り替えながら、フォントの好みを測定しました。続いて、今読んだ内容の理解を調査するために、多肢選択式の質問を行いました。内容に対する興味や知識についても質問し、彼らの読解パフォーマンスから、こうした要素の影響を排除するために使用しました。

発見したこと

唯一の「最適なフォント」というものは存在しません。読み手によって、理解度を落とさずに最も速く読めるフォントは異なります。すなわち、パーソナライズが重要になります。

人々が好みだとするフォントが、彼らにとって最も速く読めるフォントと違うことは珍しくありません。人によって好みのフォントは様々ですが、その好みはパフォーマンスとは無関係です。参加者の 73% は、自分の好きなフォントが最も速く読めるフォントだと信じていました。実際には、参加者は、自分の好きなフォントよりも、最も速いフォントで平均 14% 速く読みました。すなわち、人々が最適なフォントを発見するための支援が必要だということになります。

読み手のいくつかの特性、特に年齢は、最適なフォントの予測に有効です。Garamond と Montserrat 書体は、年配の高い参加者により良いパフォーマンスをもたらす傾向がありました。この原因は、特定のフォントに対する慣れや、フォント自体の視覚的特性など、複数の要因の組み合わせが考えられます。

35 歳以上の平均読解速度(ワード/分)をオレンジ色で、それ以外を青色で表示したグラフ。若年層は多くのフォントを平均的に速く読むが、高齢者層は EB Garamond と Montserrat を速く読む。

この驚くべき結果は、さらなる研究の必要性を伝えます。フォントに加えてテキストのフォーマットがどのように影響するか?読解速度や質問による理解度の確認以外のパフォーマンス指標があるか?あるいは、どのような多様性のある参加者の集団でテストすべきかなども気になる点です。また、読者がより速く読めるようになる最適なフォーマットを提供するツールへのニーズも示唆されています。

アドビが創設メンバーである The Readability Consortium では、すでに読みやすさに関するフォローアップ調査が、子供、成人、失読症を持つ読者を対象に始められています。その一つは、文字の幅、太さ、間隔などのテキストの特性の研究です。また、ハイライトや下線によって、読み手がテキストの行のどこにいるかを把握しやすくする「リーディングルーラー」の効果についても、視線データや音読者の音声記録を収集して、調査が進められています。さらに、スピードと理解度を向上させる最適なフォントフォーマットと読者のマッチングを行うモデルの構築への取り組みもあります。

目指したい未来は、ポケットや机の上のデジタルアシスタントが、個別のニーズ、目、脳に合わせて画面上のテキストを変えられる環境です。これを実現するには、技術者、視覚科学者、データ科学者、タイポグラファー、デザイナー、教育者、読解の専門家、そして、この件に関心を持つすべての人との協力が必要です。次にテキストを画面の中で扱う機会があれば、是非より良い「読む体験」について考えてみてください。

この記事は The need to personalize fonts for each individual reader(著者: Zoya Bylinskii)の抄訳です