日本一詳しい Substance 3D の最新情報が入手できる Substance 3D MEETUP 2024 vol.3 レポート
目次
- Updates from MAX US
- Substance 知っておきたい Tips
- フォトグラメトリをベースとした 3D アセット作成
- マツダデザインを体現する造形とビジュアライゼーション。
- スポーツシューズデザインにおける 3D の活用:Substance Painter による材料の重ね表現
- Substance を活用したインゲームにおける液体表現
- ゲーム背景制作のための Substance Painter 講座
Adobe Substance 3D ユーザー同士が交流できるリアルイベント Substance 3D MEETUP の 2024 年第 3 回が 11 月 9 日に開催されました。今回が大阪では初めてとなる開催で、土曜の午後ということもあって、いつも以上に多い 8 名の講師から、様々な Subsutance 3D 製品の情報や具体的な活用方法が紹介されました。この記事では、各セッションで説明されたトピックの概要と主要なポイントを一部抜粋して紹介します。
Updates from MAX US
最初に登壇した Adobe Technical Artist / Evangelist 福井直人氏は、マイアミで 10 月に開催された Adobe MAX 2024 からの更新情報として、Subsutance 3D 製品の新機能やベータ製品の話題を中心に、3D デザイン関連の最新情報を紹介しました。
Adobe Technical Artist / Evangelist 福井 直人 氏
福井氏が紹介したのは、以下のような項目です。
- Subsutance 3D Painter アップデート(3D カーブ、テキストワークフロー、イラストレーターとの連携)
- After Effects の拡張された 3D サポート(アニメーション付きの GLB ファイルを AE に読み込み)
- Subsutance 3D Modeler アップデート(新しいモデリング方法、プリミティブモデリングの紹介)
- Substance 3D Viewer(Photoshop での 3D モデルの読み込みから Viewer での画角調整)
- Project Neo(Illustrator ユーザーが簡単に作成できるモデリング、Firefly 機能を使いカンプ画像やリファレンス画像の作成への時間短縮)
従来 Modeler では、クレイを目的の形状に加工してモデル作成を行っていました。新しく Modeler に追加されたプリミティブは、基本的な形状の組み合わせによるモデル作成を可能にするものです。パーツをまとめて扱えるため、例えば、スピーカーの形状を変更するといった操作がごく簡単に行えます。元に戻すのも簡単です。
2 つの同じパーツの形状をまとめて変更
より実践的な例が紹介されている動画も公開されています。ぜひご覧ください。
ベータ版として MAX で発表された Substance 3D Viewer は、2D デザインワークフローと 3D アセット作成ワークフローをシームレスに連携させる新しい製品です。Photoshop に統合されているため、3D オブジェクトを含むレイヤーから直接 Viewer を呼び出して、3D 空間のカメラや照明などを操作できます。捜査した結果は、そのまま Photoshop レイヤーに反映されます。
最後の Project Neo は 、MAX の Sneaks セッションで公開された、現在ベータ版が公開されている新しい技術です。2D メインのデザイナーが、簡単に立体的なデザイン、グラフィックス、イラストを作成できるよう開発されたツールで、専門知識がなくても立体形状を作成して、Illustrator に取り込んで使うことができるという、これからが楽しみな製品です。より詳しくはこちらの記事をご覧ください。
Substance 知っておきたい Tips
続けて、Adobe Community Expert として活躍するぽこぽん丸。氏より、コミュニティサポートの経験なども含めた Subsutance 3D ユーザーなら知っておきたい様々なヒントが紹介されました。
Adobe Community Expert ぽこぽん丸。氏
ぽこぽん丸。氏が解説したトピックの主なものは、以下の通りです。
- Painter のビューワーの見た目のままテクスチャとして書き出せるか?
- エッジ付近が滑らかでないのを解決できるか?
- 出力したテクスチャの解像度が違うことがあるがどうしたらよいか?
- Normal がうまくベイクされない!
下の画像は、ベイク時の失敗を避けるための注意点として、ぽこぽん丸。氏が紹介したものです。
その他にも役に立つヒントとして、次のような項目が紹介されました。
- UV パディングには Shell パディングを正しく使う
- ペイントするとガタガタしてしまうときはテクスチャ設置を「UV Space Neighbor」にする
- テクスチャーのパディング処理の設定は変更できる
- トリムシートを有効活用する
最後におまけとして、ぽこぽん丸。氏が Painter で使用できる Dynamic Stroke を自作したときの経緯が紹介されました。
フォトグラメトリをベースとした 3D アセット作成
3 番目のセッションは、株式会社アシックス フットウエア生産統括部 技術部 デジタル技術チーム 永田慎太朗氏による、フォトグラメトリをベースとした 3D アセット作成ワークフローの紹介でした。
株式会社アシックス フットウエア生産統括部 技術部 デジタル技術チーム 永田 慎太朗 氏
永田氏によると、約 1 時間の撮影で、フォトグラメトリによる高品質な 3D アセットが一つ作成できるそうです。作成した 3D アセットからは、メッシュとカラー情報が取得できます。取得したメッシュデータは、PC で扱いやすいように軽量化されますが、大体 100K を目途にメッシュ数を減らしているそうです。UV マップの再構築もこのタイミングで行われます。シューズを、アッパーとソールと透明パーツに分けて、UV マップが作成されているそうです。
その後、透明パーツの内側にあるパーツを追加したり、色情報を修正したり、全体の質感を設定したりといったレタッチ作業が行われます。永田氏は、ベイク処理、ベースカラー、質感と光沢感の設定と、順を追ってレタッチの手順を詳細に紹介しました。
レンダリングに関しては、いくつかのツールの結果を比較して、新しくベータ版が公開された Subsutance 3D Viewer がきれいだと思ったと永田氏は語りました。Viewer については、Photoshop との連携による画像制作のデモも紹介されました。
マツダデザインを体現する造形とビジュアライゼーション。
休憩をはさんで 4 番目のセッションは、株式会社マツダ デザイン本部 デザインモデリングスタジオ デジタルデザイングループ 天野文昭氏の登壇でした。天野氏は、マツダのデザイン哲学や、自動車におけるデザインプロセスの概要、実際に自動車の造形をデザインする際のこだわりなどを紹介しました。
株式会社マツダ デザイン本部 デザインモデリングスタジオ デジタルデザイングループ 天野 文昭 氏
天野氏はモデルをつくる立場で働いていますが、デザインを伝えるためのビジュアライズにも関わっています。ビジュアライズの目的は、2 つあります。1 つは、異なる環境での色や形の見え方を評価・確認すること、もう 1 つは、デザインに込められた想いを訴求・伝達することです。モデラーがビジュアライズを行うことには、デザインに込めた想いが途切れずつに伝わる点に意味があると天野氏は話しました。
天野氏が Subsutance 3D に興味を持った理由は、3D の造形を、モデルとしてではなく、テクスチャとしてつくれる点だったそうです。例として紹介されたのは、Subsutance 3D で作成された、パラメーターで見た目を調整できるテクスチャです。打ち合わせの際、その場で形状を変更してすぐ見た目を確認できるため、デザインの意思決定が速くなったと天野氏は言います。
その場で見た目を変更して確認できる
Subsutance 3D は、その他にも、メッシュが何層にも重なったデコレーションパネルのバリエーション確認、スウェード素材の質感の再現に使われていて、デザイナーの素早いアイデア展開に役立っているそうです。
Firefly を活用して作成された素材
また、Substance 3D Assets が、背景やタイヤパターンを手軽に作る手段として使われていることも紹介されました。
スポーツシューズデザインにおける 3D の活用:Substance Painter による材料の重ね表現
シューズは何層にも材料が重ねられた構造をしています。5 番目のセッションでは、これを Subsutance 3D Painter を使ってテクスチャで表現する工程が、ミズノ株式会社 グローバルフットウエアプロダクト本部 デザイン課 テクニカルデザイナー 中村敬氏より紹介されました。
ミズノ株式会社 グローバルフットウエアプロダクト本部 デザイン課 テクニカルデザイナー 中村 敬 氏
中村氏は、シューズの上部に 4 層のマテリアルを重ねる手順を、予め録画しておいた動画を用いて紹介しました。動画内でペイントされたマテリアルの 1 層目は目の詰まった生地、2 層目は穴あきの目の粗い生地、3 層目と 4 層目は熱プレスで接着する薄い半透明シートです。2 層目は穴が開いていますので下に影ができますし、3 層目と 4 層目は半透明ですので下の層の形状や色が透けて見えることになります。これらの表現を実現するために必要になるノウハウを、中村氏は惜しみなく詳細に説明しました。
穴によりできる影なども再現されている
下のレイヤーが透ける半透明のレイヤー
また、中村氏は、自身が普段使用しているという、シートの形状修正を効率的に行える手順を紹介しました。パスを引き直すのではなく、Illustrator で作成した形状を Painter に読み込んで反映させるという手法です。
- UV マップをパスデータにして、Illustrator で開く
- そこにシートの形状を描き込む。使用する色は少し透明度を下げる
- UV マップの線を非表示にし、アンチエイリアスはオフにして書き出す
- 保存した画像を Painter に読み込んで、ID マップにセットする
- カラー選択を追加し、読み込んだ ID マップから適用したいエリアのカラーを選択する
Illustratorでシートの形状を作成
Painterに読み込んで反映する
修正するときの手順は以下の通りです。
- Illustrator で、色と透明度及び重なり順は変えずに、形状を修正する
- 書き出した画像を Painter に再度読み込み、リソースの更新を行う
- すると即座に Painter のテクスチャに反映される
Illustrator側でシート形状を修正
Painterに読み込んで反映させる
Painter 内で、複数のレイヤーにまたがる形状を修正するのは、レイヤー間を行き来して編集することになって手間ですが、このやり方であれば、一画面の中でまとめて修正を行えて効率的だと中村氏は語りました。
下の画像は、最後に中村氏が紹介した Painter での作業中に意識していることです。
Substance を活用したインゲームにおける液体表現
6 番目に登壇した株式会社 MIGAQ VFX リードアーティスト 加藤宙氏は、Subsutance 3D Disgner を使って、液体の表現を少しリッチにする Tips を紹介しました。加藤氏は、普段はゲームデザイナーとして活躍しており、Designer を使用した表現に深い知識と経験をお持ちです。
株式会社 MIGAQ VFX リードアーティスト 加藤 宙 氏
液体の本来あるべき表現に必要な性質として、今回のセッションのために加藤氏が選んだのは表面張力です。水面から跳ねた水が水滴になるのは、この表面張力によるものです。
加藤氏によると、現在は液体表現に頂点アニメーションテクスチャを使うことが増えてきてはいるものの、ハードの制約から板スプライトで表現することが現在の主流です。板スプライトでは、しきい値で消すとどうしても板っぽくなってしまうと加藤氏は指摘しました。下の画像を見ると、確かに水の厚み(表面張力)が感じられません。
そこで、シルエット、マスク、ノーマルの手順で水の表面張力を表現するというのが、加藤氏が提案した方法です。下の画像を見ると、消えている途中で水の厚みが残っている様子がわかります。
具体的に作成手順が紹介されたものは、下の画像にあるような、水しぶきを外側から内側に削っていくマスク、凹凸ノーマルマップ、そして外側が消えていくにしたがって内側を隆起させるためのノーマルマップなどで、これらを使用して、小さくなると厚みが増す様子を再現しているそうです。
Designer を使用して、表面張力の表現に必要なノードを設定する手順の詳細については、関連する情報を紹介している動画が YouTube に公開されていますので、ご興味のある方はぜひそちらをご覧ください。
ゲーム背景制作のための Substance Painter 講座
最後のセッションは、株式会社クリーク・アンド・リバー社/COYOTE 3DCG STUDIO/エンバイロメントセクションのリーダー 畑中幸誠氏とディレクター 五十嵐鉄太氏による、ゲーム背景の制作に Painter を使う場合のノウハウのお話でした。畑中氏は、あくまで社内での話と前置きしていましたが、Painter ユーザーにはとても参考になる情報が紹介されました。
株式会社クリーク・アンド・リバー社/COYOTE 3DCG STUDIO/エンバイロメントセクション・リーダー 畑中 幸誠 氏
式会社クリーク・アンド・リバー社/COYOTE 3DCG STUDIO/エンバイロメントセクション・ディレクター 五十嵐 鉄太 氏
同社は、背景モデラーだけで 70 名を抱える大規模な 3DCG 制作スタジオです。ゲーム開発では頻繁に修正が発生し、しかも複数人が並行作業することが多いため、修正が容易で誰でも同じ品質のデータをつくれることが重視されています。そこで登場したキーワードが、非破壊と再現性です。
これを実現するための社内規範として、通常レイヤーはほぼ使用せず、黒マスクを追加した塗りつぶしレイヤーを使用するのが基本になっています。黒マスクには、さらにエフェクトを追加しますが、直接ペイントを追加すると修正に弱くなるため、これは封印扱いになっているそうです。マスクの構成の基本として、五十嵐氏は、塗りつぶしとジェネレーターの使い方を紹介しました。
続けて五十嵐氏は、ID マップの重要性を説明しました。ID マップは、カラー情報を元に選択範囲を取得できるマップです。材質やパーツのマスク作成などに活用されているとのことです。
アンカーポイントも、使いこなすと調整しやすいデータがつくれる便利な機能として紹介されました。レイヤーにアンカーポイントを設置すると、そのレイヤーの要素を別のレイヤーで参照できるようになります。デモでは、複数のレイヤーをまとめて修正する手順や、ジェネレーターと組み合わせた用法が紹介されました。
お二人が所属するチームは、3D 背景モデル制作に関する技術共有ブログ Environment Holic を運営しています。毎週更新されているそうですので、興味のある方は是非ご覧ください。
当日登壇した講師の皆様