「生成した画像を使うと著作権侵害が心配」は昨今よく耳にする言葉です。この心配はもちろん妥当なものです。とはいえ、もし、サイトの画像が著作権侵害で訴えられたとしたら、それは「自分の作品に類似している!」と制作者が思っているからであって、生成された画像だからではありません。AI が生成した物も、人が制作した物も、あらゆるコンテンツは一般公開された瞬間から著作権侵害を理由に訴えられるリスクを抱えます。
このリスクは WWW 技術の標準化によりデジタルコンテンツを全世界に配信できるようになったことで一般化しました。つまり、生成 AI が登場するずっと前、数十年前に当たり前になったリスクです。少し当時の状況を振り返ってみましょう。
素材サイトが普及した必然性
ということで時代を遡ります。ブラウザーが当然のように PC にインストールされるようになった頃、先進的な企業がインターネットをビジネス用途で利用し始めました。そうして、自社サイトに公開したコンテンツが、どこかの国の誰かに訴えられるリスクと向き合うことになりました。全世界の人々に一瞬でリーチできるデジタルコンテンツの便利さの裏返しです。
著作権侵害に関しては、「自分の作品が無断で使われた」と判断したなら、訴える権利は全ての作者が持っています(少なくともそう想定して対応を検討すべきでしょう)。出自不明の画像を使った場合、それが誰かの著作物の無断使用にあたる可能性は否定できません。こうしたリスクを抱えたままサイトを運用することに対し、企業が懸念を抱いたのは当然です。
そこで素材サイトがビジネスとして台頭します。権利関係がクリアな素材を入手して使用すれば、企業は訴訟関連リスクを最小限に抑えられます。
そうして懸念が解消されて、(各方面の環境が整備されたこともあり)日本でも企業サイトが当たり前のように運用されるようになって 20 年ほどが経過しました。そして今、生成 AI の登場により、改めて著作権侵害リスクが注目されるようになりました。
では、生成 AI の登場以前と以後では何が変わったのでしょうか?
著作権侵害が成立する条件
ここで、著作権侵害で「訴えられるリスク」と、訴えられた際に「侵害と認定されるリスク」の 2 種のリスクを分けてみます。
「訴えられるリスク」に関しては、先述の通り、提訴に値するかどうかの判断が作者の主観次第です。本当は侵害していないのに訴えられるケースまで考慮すると、リスクを下げるだけではなく、訴えられた場合への備えも必要ということになります。
そこで重要になるのが、訴えが裁判所に受理されると発生するもう一つのリスク、「侵害と認定されるリスク」です。その際、裁判所が著作権侵害かどうかを判断する根拠になるのは、類似性と依拠性です。
類似性は認められないと裁判所が判断すれば、話はそこでおしまいです。しかしながら、もし類似していると判断されたならば、次は依拠性の有無が争点になります。この段階で、生成 AI の使用によるリスクが発生します。
日本ではまだ判例が存在しないものの、使用した生成 AI が当該の作品を学習している事実があれば、依拠性があると判断される可能性は否定できないでしょう。そのため、自分は見聞きしていないにも関わらず、生成 AI が許可なく学習していたせいで、著作権侵害と認定される可能性があることになります。
逆に、使用した生成 AI が学習していないことをはっきりと示せれば、依拠性がない(すなわち侵害と認定されない)有力な根拠になりえるでしょう。
このように、生成 AI が学習したデータ次第で「侵害と認定されるリスク」は大きく変わると考えられます。
学習データの重要性について
生成 AI 利用者が「侵害と認定されるリスク」を把握するには、生成 AI の学習データについて以下の事実を知ることが必要になります。
- その生成 AI が著作物を学習しているか?
- 著作物を学習している場合、著作者の許可をとっているか?
- そもそも学習データが公開されているか?
学習データが公開されていない生成 AI は、利用者が「侵害と認定されるリスク」を判断することができません。そして、先に議論したように、著作物を許可なく学習している生成 AI の生成物は、素材サイトのアセットには無い「侵害と認定されるリスク」を持っています。
対して Firefly は学習データを公開しています。著作物を学習していますが、それらはライセンスされた Adobe Stock のアセットのみです。これは、Firefly が「侵害と認定されるリスク」に関してAdobe Stock と同レベルのオンラインサービスであることを意味します。この観点において、Firefly の「安全に商用利用できる」は「Adobe Stock の素材を使うように生成物を利用できる」と解釈することが可能です。
生成 AI が学習したデータ数は、生成 AI の性能を左右します。公開されたコンテンツを自由に学習している生成 AI と比べるならば、学習データを限定している Firefly は性能面では不利な条件で開発が行われています。これは、アドビが倫理的な基準を設けて AI 開発に取り組んでいるからです。
最近、動画生成 AI の著作権を巡る問題に関する記事に、米映画協会が「責任は権利者ではなく開発側にあると強調した」と書かれていました。こうした動きをきっかけに AI 開発側の社会的責任が重視されるようになって性能一辺倒の流れが変われば、利用者のリスクも軽減されそうです。動画だけでなく画像生成なども含めた、クリエイターの権利を重視する倫理的な開発へのシフトは果たして起きるでしょうか。
Firefly 利用者としての心構え
Firefly が安全に商用利用できるからといって、どのように使っても大丈夫ということではありません。たとえば、スタイル参照と構成参照に他人の著作物を許可なくアップロードし、その著作物に類似した画像を生成させたとしましょう。その画像を公開したら、Firefly 利用者の依拠性が認められ、著作権侵害が成立することはありえます。
また先述の通り、ネットに公開すること自体に「訴えられるリスク」があります。これまでも、自分の作品であれ、素材サイトのアセットであれ、公開前に最低限のチェックはしていたはずです。Firefly の生成物も、安全に商用利用できるからでは済まさずに、公開前に他の素材と同様のチェックはするべきでしょう。「訴えられるリスク」は、あらゆる種類のコンテンツに平等です。