引き算のデザインのなかで輝く文字。丸明オールドで魅せる副田高行さんのデザイン|Adobe Fonts×Creators 06

AdobeFonts事例 副田高行さん

アドビのクラウドフォントサービス「Adobe Fonts」の書体を使い、クリエイティブな活動を繰り広げる人たちにフォーカスする企画「Adobe Fonts × Creators」。第6回目は、1970年代から現在に至るまで、無数の名広告を作り上げてきたアートディレクター・副田高行さんが登場です。コピーライターが紡ぐ言葉、写真が映し出す世界を最大限に引き立たせるデザインは、情報が飽和する現代社会においても唯一無二の存在感を放ち、時にやさしく、時に力強く、メッセージを伝えます。

文字・フォントの世界においては、片岡朗さんが手がけた名書体「丸明オールド」を最初に使ったデザイナーとしても知られ、以降も丸明オールドを使った数々の名作広告を世に送り出したことで、当時のデザイン界に「丸明オールド」ブームを巻き起こすきっかけをつくりました。
副田さんがいまなお「丸明オールド」を愛用する理由はどこにあるのか。丸明オールドとの出会いと魅力、そしてデザインにおける書体の役割について、お話を伺いました。

副田高行さん ポートレート

副田高行さん

写植からMacへ。過渡期に誕生した名書体「丸明オールド」

副田さんが「丸明オールド」に出会ったのは1999年9月のこと。
かつてスタンダード通信社で席を並べていた片岡朗さんから、製作中の書体を見せられたことがきっかけでした。
デザインの現場で写植からDTPへの移行が進むなか、書体や文字組みに対して違和感を感じていた副田さんにとって、それは感動すら覚える鮮烈な邂逅となりました。

「片岡さんはスタンダード通信社時代の元同僚で、僕にとっては兄貴的な存在でした。片岡さんはその後、カタオカデザインワークスを立ち上げ、僕はサン・アド、仲畑広告制作所を経て、1996年に副田デザイン制作所を設立するのですが、当時はMacを使わず、写植の文字でデザインをしていたんです。
Macでのデータ入稿が増え、しかたなくMacを使うようになっても、文字だけは変わらず写植で打ったものをMacで貼っていました。あの頃はまだ、Macで使えるいい書体がなかったからです」

丸明オールド 見本

砧 丸明オールド https://fonts.adobe.com/fonts/marumin-old-stdn

当時、丸明オールドを見たときの印象を、副田さんは自著で以下のように綴っています。※S…副田さん

〈その新書体を見た瞬間、Sは大きくうなずく。いつも感動した時に口走る、癖のようになっている言葉を発する。「イインジャナイ!」。明治後期の活字から、ヒントを得て制作した明朝。構想から5年を要したという。書体の名は、丸明オールド。懐かしくて、モダンな明朝体だ。漢字とかなの大きさのバランスが、極端にちがう。が、不思議と縦に組んでも、横に組んでもキレイで読みやすい。筆文字のような形のかなが、とくに新鮮だ。これという自分のスタイルを持たない流儀のSにとって、美しく新しい書体の出現は、歓迎すべきことなのだ。特にSの場合、人一倍文字にうるさい。コピーを重んじる、つまり、とてもデリケートに書体を選んでいる。Sが選択する書体は、その時最も機能する書体であり、デザインなのだ。デザインの為のデザインではなく、必然としてのデザインなのだ。「デザインハ、引キ算ダ」が持論の、Sのデザインはとてもシンプルだ。Sほどいろいろな書体を的確に使うADは、他にいない、と言われる。「素晴ラシイ。イツカ使ワセテモラウヨ」。〉

この「イツカ」の約束は、図らずもすぐに実現することになります。
丸明オールドに出会った翌週、副田さんのもとに丸明オールドのデビューにふさわしい依頼がきたのです。
それは「サントリーモルツ」が麦100%、天然水仕込みになってリニューアルしたことを伝える、カラー15段(=1ページ全面)の新聞広告でした。

「佐々木宏さんから“コピーメインでいきたい”という相談されたとき、まっさきに浮かんだのが丸明オールドでした。
そのときはまだ丸明オールドはフォントになっていませんでしたから、デザインに必要な漢字も揃っていなくて。コピーが上がってくるたびに、片岡さんに文字を作ってもらっていました」

この広告は翌年、2000年2月に新聞各紙に掲載され、これ以上ないくらい強力な、丸明オールドのお披露目になりました。

丸明オールド 使用例

サントリー「モルツ」新聞広告(2000)

商品が新しく生まれ変わることを、誰も見たことがない書体で伝えた「サントリーモルツ」の新聞広告は、デザイン界にも衝撃を与え、大手広告会社の社長が部下にこの書体を探させるも、見つけることができなかったというエピソードも。
それもそのはず、丸明オールドはまだ製品化されておらず、誰もが自由に購入できるようになったのは、この広告が展開された翌年、2001年になってからのことでした。

「『サントリーモルツ』以降、あまりに僕が丸明オールドを使うものだから、若いデザイナーは丸明オールドを副田フォントなんて呼んでいましたね。コピーライターに、“また丸明オールドなんですか?”と煙たがられたこともあります(笑)。
丸明オールドが発売されて数年経って、それまで写研のMMOKL(石井中明朝)メインだったキユーピーの広告に丸明オールドが登場したとき、丸明オールドは市民権を得た、と感じました」

丸明オールド 使用例

左:日本ペットフード 新聞広告(2004)/右:高橋酒造「しろ」新聞広告(2008)

2021年、丸明オールドはAdobe Fontsに追加され、ますます活躍のフィールドを広げています。丸明オールドの一番の使い手と言っても過言ではない副田さんは、この書体をどのように使っているのか。組みかたのポイントを聞きました。

「丸明オールドを使ったデザインは数えきれないくらいありますが、同じ丸明オールドを使っていても、使う場面や用途によって、毎回、組みかたは違うんです。たとえば、理研ビタミン『ふえるわかめちゃん』の新聞広告の場合、ヘッドコピーでは四分、ボディコピーでは八分程度の空きを入れて組むことで、ゆったりと語りかけるような印象に仕上げています。
ほかにも、漢字だけ少しあけたり、少し太らせてぼってりさせたり……そのまま使うことはほとんどありません。だから、文字詰めや太さを細かく調整しているのを見ると、“丸明オールドのよさがわかっているな”と思いますね」

丸明オールド 使用例

理研ビタミン「ふえるわかめちゃん」新聞広告(2026)

丸明オールド 使用例

五島の椿「椿の葉 保湿水」「椿酵母せっけん」広告(2025)

書体は“ナレーション”のようなもの

活字、写植、DTPと3つの時代を渡り歩き、デザインを続ける副田さんは、どのように書体を選び、言葉をかたちにしてきたのでしょうか。
副田さんが好きな書体、よく使う書体から伺いました。

「明朝体では、写植の頃からモリサワのA1が日本一だと思っています。凹凸があって少しぽてっとしているところが好きなんですよね。デジタルフォントになったとき、文字のかたちやバランスは整理されてしまいましたが、いまでも明朝体といえばA1明朝を使っています。
ゴシック体なら、モリサワの見出ゴMB31をよく使います。強くメッセージしたいときには、ちょうどいい書体だと思います。
かつては、明朝体は上品で美しい、ゴシック体は重い/強い/ちょっとダサいというイメージを持っていましたが、1980年代に井上嗣也さんがゴシックMB101に斜体をかけたり、極太の文字を綺麗に組んだりしているのを見て、ゴシック体も使いかた次第でカッコよく見えるんだなと。それからはゴシックを使うことも増えていきました」

活字を使ったデザイン例

「サントリー ナマ樽」(1980)…ザラ紙に活字で印字した文字をもとにデザイン。ADC賞受賞

「書体を選ぶときにまず、明朝体とゴシック体、どちらがメッセージのトーンに合うかを考えます。やさしく伝えるなら明朝体、強く訴えるならゴシック体を選ぶのが、僕にとっての基本です。
デザインにおいて書体は言わば“ナレーション”のようなものです。
TVCMでは、女性の優しい声なのか、男性の強い口調なのか、大きい声なのか、小さくささやくような声によって伝わりかたが変わりますよね。グラフィックでも同じように、やさしい明朝体で組むのか、強いゴシック体で組むのか、書体選びと文字のレイアウトによって、言葉の届きかたはまったく違うものになると思っています」

カゴメがスターバックス コーヒー向けに開発し、2007年から店頭で販売されている子ども向けジュース「be juicy!kids」では、やさしく語りかけるようなトーンを出すために、日本語部分に丸明オールドを採用。田中靖夫さんのイラストがあしらわれたチャーミングなパッケージデザインとあいまって、約20年にわたるロングセラー商品になっています。

丸明オールド 使用例

スターバックス コーヒー ジャパン「be juicy ! kids」(2007〜)

語り手の言葉を書体に乗せてデザインする

同じ企業・ブランドのデザインでは、同じ書体を使うことも、副田さんならではのデザインアプローチです。別の企画やキャンペーンだとしても、メッセージの語り手は変わらないからです。

「たとえば、earth music&ecologyの広告は、宮﨑あおいさんを藤井保さんが撮り、児島令子さんがコピーを書くというスタイルで10年以上続いたシリーズです。
藤井さんには“ファッション広告だけどファッションっぽい写真を撮らないでほしい。earth music&ecologyの服を着た女性・宮﨑あおいのポートレートとして撮影してほしい”と頼み、宮﨑あおいさんには“笑う必要はないから”と、自然な表情をお願いしました。
このビジュアルに対して、文字を明朝体や丸明オールドにしてしまうと情緒的になりすぎるので、少しクールな感じを出すために選んだ書体が、片岡さんが作った『iroha gothic 26tubaki』です。
児島令子さんのコピーを、同じ書体で、同じような組みかたで入れることで、earth music&ecologyとしての伝わりかたを揃えています」

irohaゴシック 26tubaki 使用例

ストライプホールディングスグループ「earth music&ecology」新聞広告(2014)、ポスター(2010〜2012)

砧 iroha 26tubaki https://fonts.adobe.com/fonts/iroha-26tubaki-stdn

「タカキベーカリーは、パンのパッケージや新聞広告、ポスターのデザインを20年以上担当しているのですが、もともとは、2005年に『朝の食パン』のデザインを依頼されたことから始まりました。
それまで、パンのパッケージといえば、種類は多いのにデザインがバラバラでメーカーごとの統一感もありませんでした。そこで、『朝の食パン』というシンプルなネーミングとともに、“パンの原点に戻りましょう。町の手作りパン屋さんがビニールに入れて手書きするようなイメージで、文字だけで名前と特徴を伝えましょう”という提案をしたんです。パンというキャンパスに、見出ゴMB31で書かれたパンの名前、丸明オールドで書かれたコピーを置いただけの、言わば“デザインしない”デザインです」

このとき、副田さんは『朝の食パン』だけ変えるのではなく、200種類以上あるすべてのパンを統一したほうが、タカキベーカリーのブランディングになることも提案。気を衒わず、商品の魅力をまっすぐに伝えるために、パンそのものを広告のようにデザインする副田さんアプローチに共感したタカキベーカリーは、この案を即実行に移したそうです。
こうして、どんな売り場でも作り手と特徴がすぐわかる、これまでにないパッケージデザインが誕生しました。

「僕は広告デザインの人間なので、パッケージデザインでもブックデザインでも、広告的に考えてしまうのでしょうね。売り場のなかでの差別化、一番目立つ方法、伝わる方法を考えるんです。そうして目に留まり、手に取ってもらえさえすれば、いいものは買ってもらえるはずですから」

丸明オールド 使用例

タカキベーカリー 60周年記念 新聞広告(2008)

丸明オールド irohaゴシック 26tubaki使用例

副田さんがデザインを担当しているタカキベーカリーの商品(一部)。使用書体は、iroha 26tubaki(左)と丸明オールド(右)

「文字を、言葉を大事にデザインしてほしい」

50年以上にわたり、デザインの現場に身を置く副田さんは、いまの広告デザインをどのように視ているのでしょうか。

「僕たち広告デザイナーがやるべきことは、クライアントが伝えたいことを、どう届けるかを考えること。デザインしたものを通して、企業やブランドを好きになってもらう、いいなと思ってもらう。そのために広告をつくっています。
広告は、言葉とビジュアルを組み合わせてつくるものですが、最近、広告賞の審査員をしていて気になるのは、キャッチコピーの扱いが小さいことです。
デザイン的にかっこよく見せようという意識が強すぎるのか、キャプションのようなサイズで組まれているものをよく見かけるのですが、文字を、さらに言えば、言葉をもっと大事にしてほしい。
僕は仲畑貴志さんという天才コピーライターと長く仕事をしていましたが、毎回ものすごいコピーが来てしまうので、一文字たりとも、ないがしろにすることはできませんでした。そういう出会いもあって、僕はいまでも、コピーを大切にデザインするようにしているんです」

副田さんは文章を書くとき、漢字にせずとも伝わるところはひらがなで書くようにしていると言います。日常のなかにあっても、ひらがながもつ美しさを引き立たせ、読みやすい文章に仕上げることは、言葉の持つ力を信じ、デザインに向き合い続けてきた副田さんならではの感性、美意識の現れと言えるのではないでしょうか。

多彩な書体が数えきれないほど使えるいま、デザインにおける文字表現は無限とも言える可能性を秘めています。デザイナーはいま、どのように書体を選び、デザインに活用していけばいいのでしょうか。最後にアドバイスをいただきました。

「デザインは書体次第で良くも悪くもなるものです。
活字や写植の時代と比べれば、書体の自由度は飛躍的に高くなりましたが、それゆえに書体の選びかたをひとつ間違えれば、ひどいデザインになってしまう危うさもあると言えます。
仲畑さんの言葉に『クリエイティブはチョイスだ』という言葉があります。どれほどたくさんのコピーを書いても、一番いいコピーを選べなければ、コピーライターとしてはダメなんだと。書体も同じで、無数にあるなかから正解をチョイスできるかどうかが大切なんです。
そのためにも、いいものをたくさん見て、自分の審美眼を養うことが大事だと思います」

副田高行
アートディレクター
1950年福岡県生まれ、東京育ち。東京都立工芸高校デザイン科卒業、スタンダード通信社、サン・アド、仲畑広告制作所を経て、副田デザイン制作所主宰。
おもなクライアント:サントリー、新潮社、TOTO、東京ガス、岩田屋、JR九州、小学館、西武百貨店、AGF、朝日新聞社、シャープ、TOYOTA、フジフイルム、ANA、NIKE、トンボ鉛筆、タカキベーカリー、日本ペットフード、日本医師会、高橋酒造、タケダ、岩波書店、NHK、JRA、earth music&ecology、野村ホールディングス、サイバーエージェント、五島の椿、宝島社ほか。
おもな受賞: 東京ADC 賞、会員賞、殿堂入り、朝日広告賞、毎日広告デザイン賞、読売広告大賞、日経広告賞、日本新聞協会新聞広告賞、日本宣伝賞山名賞、ほか。
著作:『副田高行の仕事と周辺』(六耀社)、ggg Books61『副田高行』(トランスアート)、『SOEDA DESIGN FACTORY 副田デザイン制作所 仕事集』(美術出版社)、『時代の空気。副田高行がつくった新聞広告100選』(玄光社)。