どう変わった? Illustratorの文字組み機能
Illustratorの文字組み機能は、具体的にどのように変わったのでしょうか。ユーザーサイドと開発サイド、それぞれの視点で掘り下げていきます。
大石「カーニングが設定された文字がテキストエリアからはみ出る/回転した文字の位置がずれる/テキストエリアの上下方向の揃えが正確ではない、といった大きな不具合はほとんどが解消されていますね。
細かいところだと、文字組みアキ量設定で和欧間のアキをカスタマイズしていても、行頭禁則文字にはそのアキが適用されませんでしたが、Illustrator 2025では直っていました。今回、かなり細かいところまで修正しているのではないでしょうか」
ナット「はい、今回のアップデートでは、テキストエンジンのさまざまな箇所に手を加えていて、2024年10月アップデート時点で、文字組みに関連したおよそ200のバグが修正されています。
開発にあたっては、割注のように使用頻度の低い機能から修正をはじめ、徐々に“カーニングされた文字がテキストエリアから出てしまう”というような、影響の大きいバグ修正をしていきました」
「行末処理や字間の調整には、日本語特有の難しさがあるのでしょうね。
欧文では基本的に単語の途中で改行されるようなことはありませんし、行中のアキはワードスペースで対処できる。一方、正方形の文字を並べていく日本語組版では少しのズレでもすぐにわかってしまいますから……開発もしんどいんじゃないかと思います(笑)
ただ、気づく人が少ないようなところまで、細かく修正されていて、文字を組む人間にとっては拍手をもって迎えたいくらい、すばらしいアップデートだと思います」
「修正にあたっては、社内でも“ユーザー数は?”と聞かれるんです。要は“その機能を修正することでどれだけのユーザーにメリットがあるのか”が、修正の順位を決めるひとつの指標になるということですね。
ただ、今回のアップデートに関しては、修正に気づくのはごく少数だったとしても、“文字をきれいに組みたい”というプロユーザーを大事にしないといけないと考えていました。特に日本の場合、Illustratorはさまざまな業界のデザインに使われており、美しい組版の実現はリクエストされていた課題のひとつでした。
私たち開発チームとしては、たとえ一人でも役に立つのであれば、バグを修正し、機能を改善したい。今後も、ひとりでも多くの声を聞きたいので、製品に対する要望はユーザーボイスへの投稿・投票だけでなく、SNSでも伝えてもらえるとうれしいですね」
「よくなったとは言え、まだ、気になる点があると言えばありますから、そういうときはSNSでもいいから情報発信したほうがIllustratorの機能改善につながるということですね(笑)。
僕も組版についてよくXで情報発信していますが、やっぱりAdobe InDesignよりIllustratorのほうが反応は多いですよ。ユーザー数の違いもあるでしょうが、ちょっとしたことでも情報を出していけば、それを役立てる人がいるんじゃないかと思って、発信を続けるようにしています」
「やはり、『バグが修正されて助かった』という声はすごく励みになりますね。同時に『まだこれは直っていない』『新しい問題を見つけた』というフィードバックも大事にしたいと思っています。今後のアップデートにどう反映していくか、プランを立てることができますから。
最初からパーフェクトなアップデートができればよかったのですが、ひとつの問題を直したことでまた別の問題が起きることもあるのが、ソフトウェア開発の難しいところですね。
ただ、日本語組版のクオリティをさらに上げなくてはいけないという想いは常に持っていますから、既知の問題については今後も継続して直していきたいと考えています」
この先どうなる? Illustratorの文字組み機能
Illustratorの文字組み機能改善は、Illustrator 2025(2024年10月アップデート)のリリースをもって終了したわけではありません。今後も、さらなる機能改善が行なわれます。
ナット「バグの修正以外にも、文字組み品質向上のために検討しているのが、『文字組みアキ量設定』の改善です。『文字組みアキ量設定』は美しい日本語組版を行なううえで、欠かすことができない重要な機能ですが、使いかたをうまく伝えられていないと感じています。
Illustratorの『文字組みアキ量設定』は、ベーシックなものが4つありますが、これは本来、そのまま使うものではなく、編集して使うものです。しかし、InDesignに比べるとIllustratorは編集できる範囲が限られているのです」
「英字と数字が英数字としてまとまっていたり、文字種(クラス)の少なさも気になるところですが、一番困るのは、アキ量が適用される優先順位が変更できないことですね。
たとえば、ツメ組み用に「約物半角」をカスタマイズして、行中の中黒の最適値を「25%」から「0%」に変更したアキ量設定を割り当てたとしても、中黒(・)/句点(。)/読点(、)があるテキストに行長調整が入ると、まず中黒にアキが入り、句点が最後に入ってしまう。本来は逆であるべきですが、優先順位が変更できない以上、対処のしようがない状態です」
「そうです。そうした点を改善できれば、Illustratorでも十分に美しい文字組みができるようになります。
ただ、InDesignほど複雑なUIは、Illustratorユーザーには難しいと感じるでしょうから、大石さんにもご協力をいただきながら、わかりやすくて使いやすい方法を考えていきたいですね」
大石「僕もInDesign、Illustrator向けにカスタマイズしたアキ量設定を公開していますが、使っているのは文字組みについて意識的な中・上級者だと思うんですよね。
初心者から上級者まで幅広く使うIllustratorに、“とりあえず、これを使っておけばOK!”というアキ量設定が追加されるといいですね」
ナット「そうですね。私たちは、日々、世の中にあるプロが作ったデザインや文字組みを目にしていますが、自分で作ろうとしてもなかなか同じようには作れません。たとえばそうした差分を、文字組みアキ量設定で埋めることができないかと考えています。
私たちとしては、文字組みのあるべき姿、きれいな文字組みとはどのようなものか、ということを知っている大石さんがカスタマイズした文字組みアキ量設定を、Illustratorにも組み込みたいと考えているのですが……いまの時代にあう文字組み設定をつくってもらうことはできないでしょうか」
大石「喜んでやりますよ(笑)。
いまの文字組みアキ量設定は、縦のベタ組みが主流だった時代のJISを基準につくられていますから、どうしても時代にあわない部分があります。たとえば、いま僕が文字組みアキ量設定をつくるのなら、『令和6年12月』のようなテキストのとき、和文・数字間のアキは0%にして、和文・欧文間のアキは12.5%(八分)にしたい。
ベタ組み向けの設定だけでなく、メトリクスカーニングを適用した状態できれいに組むための、ツメ組み用の設定も必要になるでしょう」
ナット「英字と数字を個別に処理するとなると、Illustratorの文字組みアキ量設定で指定できる文字種(クラス)を増やす必要がありますね。
開発は大変かもしれませんが、2025年中には大石さんの文字組み設定を組み込みたいですね」
文字組みの未来が見える Adobe MAX Japan 2025
2025年2月に東京ビッグサイトで行なわれるAdobe MAX Japan 2025では、今回の記事をさらに深掘りする「開発担当×文字組み職人が語る『Illustrator、ここがすごい!』」が開催されます。
大石十三夫さん、ナット・マッカリーを中心に、Illustratorの文字組みのいまと未来を探る、Illustratorユーザー必見のセッションとなりますので、ぜひご来場いただき、セッションへのご参加をお願いいたします。
「私たちがなぜこの世界に入ったかと言えば、やっぱりおもしろいからなんです。あたらしいテキストエンジンと設定の組み合わせで、いかに美しい文字組みを実現するか。そのアイデアを考えることに楽しみを感じています。文字組みは伝えるのが難しいテーマではあるのですが、その奥深さ、おもしろさを大石さんと伝えたいですね」