ベテランほど知らずに損してるIllustratorの新常識 2025
第3回「Illustratorのテキストまわりの機能強化を徹底解説!便利な設定と操作まとめ」
Illustratorでのデザインにおいて、テキストやフォントの設定は作品の完成度を左右する重要な要素です。
毎年の大型アップデートだけでなく、年に数回行われるマイナーアップデートでも、テキストまわりの機能は着実に進化しています。せっかく機能が追加・強化されていても経験豊富な方ほど見落としがちです。
今回は、そうした「テキスト」に関する機能や設定を整理し、日々の制作をより快適に進めるためのヒントをご紹介します。
環境設定で差をつける!テキスト関連の便利オプション
Illustratorでテキスト作業を快適に進めるためには、「環境設定」の見直しが欠かせません。テキスト関連でぜひともチェックしておきたい設定項目を紹介します。
意図しない異体字変換を防ぐため、[選択された文字の異体字を表示]をOFFに
テキストを1文字選択すると異体字候補の小さなパレット(ウィジェット)が表示されます。一見便利な機能ですが、以下のような課題があります。
- 意図せず異体字を変更してしまうリスクがある
- 候補として表示される異体字は最大5つまでのため、それ以上の候補を確認するには結局[字形]パネルを開く必要がある
そのため、異体字の変更は[字形]パネルを使って行うのが確実です。
異体字ウィジェットの表示をオフにしたい場合は、環境設定の[テキスト]カテゴリで[選択した文字の異体字を表示]をOFFに設定します。
最近使用したフォントの表示数を「0」にして、以前のフォント選択動作を再現
「Illustrator 10までのように、アルファベット順のフォントメニューで該当箇所にリバウンドしたい」という要望がベテランユーザーから多く寄せられています。
現在のIllustratorでは、フォントメニューの最上部に「最近使用したフォント」が10個表示される仕様ですが、環境設定の[テキスト]カテゴリで「最近使用したフォントの表示数」を「0」に設定することで、この機能をOFFにできます。これにより、フォントリストがアルファベット順で表示され、以前のように選択したフォントの位置にリバウンドする動作が復活します。
「最近使用したフォントの表示」機能も捨てがたいのですが、この設定を活用することで、従来の操作感で効率よくフォント選択ができるようになります。
テキストの選択のクリック箇所を限定
Illustratorでは、テキストオブジェクトを選択する際のクリック範囲を「パス上のみに限定」できます。環境設定の[テキストオブジェクトの選択範囲をパスに制限]をONにすると、テキストのパスやアンカーポイント部分のみが選択対象となり、テキストの塗り部分をクリックしても選択されなくなります。
この設定は、特に「源ノ角ゴシック」のように見た目以上に高さが大きいフォントや、上下にテキストが重なっている場合に便利です。パス部分だけをクリックして選択できるため、前後関係を気にせず、意図したテキストや下のオブジェクトを素早く選択できるようになります。
複雑なレイアウトや重なりの多いデザイン作業で、選択ミスや手間を減らしたい場合に有効な設定です。
存在しない字形の扱いを制御する
Illustratorの環境設定[テキスト]には「見つからない字形の保護を有効にする」というオプションがあり、初期設定ではONになっています。
この機能をONにしていると、指定したフォントに存在しない文字が入力された場合、自動的に別のフォント(日本語版では小塚ゴシック)に切り替えて表示します。これは、Webブラウザやワープロソフトでも一般的な「フォントフォールバック」機能と同様で、文字が表示されない(豆腐化け)よりも、別フォントで表示されるほうが利便性が高いという考え方に基づいています。
一方、このオプションをOFFにすると、指定したフォントに該当する字形がない場合や絵文字を入力した場合などに、該当部分は「□」(いわゆる豆腐)で表示されます。
デザイン作業においては、指定フォントで表示できない文字が明確に分かるよう、あえて「見つからない字形を保護」をOFFにして豆腐化けさせることで、誤って別フォントに切り替わるのを防ぐという運用が望ましいでしょう。
Adobe Fonts
Adobe Fontsでは現在、30,000種以上のフォントが提供されており、日本語フォントも豊富に揃っています。
2025年4月には1,500以上の新しいフォントが追加され、Helvetica、Gotham、Avenir、Times New Roman、Proxima Novaなどの定番フォントの追加が大きな話題となりました。
Adobe Fontsを快適に利用するために、いくつかの設定を確認しておきましょう。
Adobe Fontsを自動アクティベート
使用している環境に未インストールのAdobe Fontsが含まれるドキュメントを開いた際、自動でフォントをアクティベートできるよう、環境設定を有効にしておくのがおすすめです。
ただし、フォント数が増え続けると、OSやIllustratorの起動、フォントの読み込みに時間がかかることがあるため、定期的な整理を忘れないようにしましょう。
フォントメニューでのフィルター活用
共同作業時のフォントの互換性を考慮するなら、フォントメニューで「Adobe Fontsのみ」に絞って表示するフィルター機能が便利です。
[さらに検索]に切り換えると、すべてのAdobe Fontsがリスト表示され、個別にクリックしてIllustrator内でアクティベーションできます。
なお、Adobe Fontsに登録されているフォントは、ライセンスの都合などにより予告なく利用できなくなる場合があります。
欧文関連
英文のスペルチェック
UIデザインや英文を含むアートワーク制作で欧文の誤字の見逃しを防ぐために、Illustratorにもスペルチェック機能を利用しましょう。
スペルチェックはその都度手動で実行することもできますが、[自動スペルチェック]を有効にすれば、入力中にミスをリアルタイムで検出できます(誤字と判断される単語に赤いギザギザの下線が表示されます)。
欧文テキストの大文字と小文字の変換
欧文テキストの大文字・小文字を自動で整える便利な機能があります。ワンクリックで整形できるため、入力の手間やスペルミスも防げて効率的です。
この機能はかなり前から搭載されていますが、意外と知られていないことも多いようです。
整列
天地中央に整列(字形の境界に整列)
[整列]パネルメニューの[字形の境界に整列]をオンにすると、見た目のとおりに(期待通りに)揃います。
デフォルトはオフ。ポイント文字/エリア内文字を個別にオンにできます。
グリフにスナップ
あたかもアウトライン化したように、アンカーポイントにスナップしたり、ボディの中心にスナップしたりするなど、グリフにスナップ機能が追加されています。
便利機能を使いこなそう
テキスト作業を助ける機能が増えています。
書式なしでペースト
書式を引き継がずにテキストを「プレーンテキスト」として貼り付ける「書式なしでペースト」機能が追加されています。⌘ + Option + V(Windowsでは Ctrl + Alt + V)のキーボードショートカットも用意されています。
環境設定の[クリップボードの処理]カテゴリから、常に書式なしでペーストする設定に変更することも可能です。
文字タッチツール
[文字タッチツール]を使えば、テキストアウトライン化せずに、文字サイズ、垂直比率、水平比率、カーニング、回転、ベースラインシフトを文字ごとに調整できます。
- 大きさの変更を行う際には右上の「○」をドラッグ
- 文字を移動したいときには、左下の●を使わなくても、テキストの塗り部分をドラッグできる
フォントの特定や復元
ビットマップ画像やアウトライン化されたパスからフォントを特定したり、テキストとして復元したりできる、夢のような機能「Retype」が登場しています。
ただし現在、テキスト復元機能は一時的に提供が停止されており、使用できません。
箇条書き、番号リスト
InDesignやMicrosoft Word、Google ドキュメントでは当たり前のように使える「箇条書き」と「番号リスト」が、Illustratorにもついに追加されました。
「・」などの記号を用いたリストや、1. 2. 3. といった数字による「番号リスト」をまとめて「箇条書き」として扱います。
ただし現時点では、記号や数字のバリエーションが限られていたり、独自の書式を設定できないなど、やや物足りない点もあります。
共通のフォントを選択
[選択]メニューの[共通]にテキスト属性のオプションが追加され、ファミリー、スタイル(ウエイト)、サイズ、カラー(塗り・線)の条件でテキストを選択できるようになっています(A)。
選択できる条件は以下のとおり:
「同じフォントのテキストだけを一括選択したい」「特定の色のテキストをまとめて編集したい」といったときに便利です。
なお、従来の[選択]→[オブジェクト]→[すべてのテキストオブジェクト]も引き続き利用できます(B)。「すべてのテキストを選んで別レイヤーに移す」などの用途では重宝します。
フォントリストの表示が爆速に
フォントの数が多くなると、フォントリストの表示にも時間がかかります。
便利機能というよりは改善点ですが、今回のアップデートにより、フォントリストのスクロールや表示速度が大幅に高速化されています。大量のフォントを扱うユーザーにとって、快適さがぐっと向上しています。
まとめ:テキスト機能を知れば、作業効率が変わる
Illustratorのテキスト関連機能は、日々の制作効率化するための工夫が随所に施されています。特に以下のような点に注目すると、より快適にテキスト作業を行うことができます。
- 環境設定の見直しで操作性アップ:異体字の表示制御や、フォントメニューのリバウンド復活、選択範囲の限定など、細かな設定変更で作業効率が大きく向上します。
- Adobe Fontsの活用と整理:自動アクティベートやフィルター機能を活用すれば、複数人での作業でもフォント管理がスムーズに。定期的な整理も忘れずに。
- 新機能で作業効率をアップ:スタイルなしペーストやRetype、箇条書き・番号リストの追加、大文字・小文字の変換など、知っておくと便利な機能が充実しています。
- 共通属性でのテキスト選択が可能に:フォントファミリーやカラーなどの属性でオブジェクトを一括選択できるようになり、大規模な修正も簡単に。
- フォントリストの表示が高速化:多数のフォントを扱う環境でも、フォントメニューの表示が快適に。小さな改善ですが、日々の作業負荷を大きく軽減します。
テキストまわりの機能は一見地味に思えるかもしれませんが、知っているかどうかで作業のスピードと正確さに大きな差が出ます。ぜひ今回紹介したポイントを活用し、Illustratorでのテキスト処理をさらに快適にしていきましょう。