Adobe Expressと生成AIを活用した「情報デザイン」で、探究心と創造性を引き出す授業実践 ~兵庫県立伊丹北高等学校
兵庫県立伊丹北高等学校 情報科の白井美弥子先生は、「情報デザイン」の授業でAdobe Expressを中心に生成AIや他のアドビツールを組み合わせた実践的な取り組みを展開しています。Adobe Express活用の具体的な取り組み事例や、教育現場でのデジタルツール活用の意義について白井先生にお話をうかがいました。
令和6年度に文部科学省が推進する高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)にも採択された伊丹北高校は、普通科を母体とした総合学科(単位制)の高校。2・3年生の選択科目として「情報デザイン」(専門教科「情報」)が設置されており、毎年約20名が受講しています。4月の「情報デザインの基礎」から始まり、白井先生が立案した年間計画の月次テーマに沿ってロゴマークや名刺、ポスター、CDパッケージなど、生徒たちは次々と実社会を意識した課題の制作に取り組みます。この授業に本格的にAdobe Expressが導入されたのは2023年度のこと。白井先生は「それまではポスター作りや名刺作りもPowerPointでやっていたのですが、Expressは操作が直感的なので、より授業の内容や生徒が作りたいものに合っていると感じています」と語ります。今では年間の授業を通して、Adobe Expressが欠かせない存在になっているそうです。
生成AIと対話しながらAdobe Expressでデザイン制作
5月に自らを表現するロゴマーク制作を行った後、6月・7月に取り組むのが名刺やショップカードなど、「自分について人に伝える」ことを意識した課題です。生徒たちは「10年後に働いている会社」を想定し、Adobe Expressでロゴを自作して、名刺に組み込んでいきます。「ロゴは会社の顔。自分が将来働きたい会社をイメージしてロゴを作り、名刺に入れることで、社会人としての自分をより具体的に想像できるようになります」と白井先生。ロゴをゼロから作る生徒もいれば、Expressのロゴメーカー機能やテンプレートを活用する生徒も。シンプルさや情報の優先順位を重視し、「限られたスペースで『わかりやすく伝える』ために、何を入れて何を削るべきか考えよう」と白井先生はアドバイスしています。
10月からは2か月間かけて取り組むCDパッケージ制作の課題が始まります。生徒は自作の歌詞やAIで生成した曲をもとに、CDのブックレットやパッケージ全体をデザインします。「CDパッケージを、1個の商品として世に出せますよ、というレベルまで作りこんでいます」とは白井先生。生徒たちは「自分の感情や未来への思いを歌詞に込め、それをパッケージ全体で表現する」ことに挑戦しています。
この課題全体を通して重要な役割を果たしているのが生成AI。歌詞作成には文章生成AIを活用し、イメージ画像の生成にはAdobe Fireflyを使います。
生徒たちはまず自分で歌詞を執筆した後、AIチャットと壁打ちをしながら何度も修正を繰り返し、歌詞を書き上げます。そうして完成した歌詞をもとに、Fireflyでイメージ画像を生成。「画像や素材はExpressやFireflyを使って作成したもの、または自分で描いたイラストのみOK。インターネットなどから取ってきた素材はNG」とルールが明確化されており、「iPadで撮影した写真やAdobe Frescoで描いたイラストもExpressに取り込んで、最終的にPCで編集を行って仕上げます」とのこと。
■生徒の作品例1
■生徒の作品例2
■生徒の作品例3
※いずれも2025年度の生徒の作品例です。
授業は、基本的に冒頭10分の講義と40分の制作時間で構成されます。「最初に理論や注意点を伝えたら、あとは生徒の自主性に任せています。質問があれば随時アドバイスしますが、基本は自由に探究させています」と白井先生。「Fireflyについては、最初にデモンストレーションを1回だけやって、あとは生徒自身にまかせます。どういう結果になるかはやってみないと分からないので、とにかく自分でやってみてね、と。出てきたものが『これだ!』と思えるまで」と指導しているそうです。生徒たちは色彩、スタイル、構図などの要素を詳細に定義することで、望むビジュアルイメージの生成精度を高めようと試行錯誤。イメージと異なる画像が生成された場合は、納得いくまでプロンプトを調整し、最適なアウトプットを追求していきます。
完成した作品は校内発表会で展示され、校外からの来場者にも披露されるそうです。
Adobe Express活用のメリット
情報デザインの授業にAdobe Expressを使うことについて、白井先生は次のようなメリットを挙げます。
1)直感的な操作性:デザイン初心者でもすぐに使いこなせる
2)機能が厳選されていること:必要な機能がシンプルにまとまっており、迷わず作業できる
3)生徒の主体的な学び:やり直しが簡単なのでどんどん試せる。新たな機能の発見や活用も生徒主導で進む
4)ツール間の連携がスムーズ:iPadとPCの作業がシームレス。アドビのアプリ間の連携が簡単
「前任校ではAdobe Illustratorを使って授業をしていましたが、機能が多すぎて触るのを怖がる生徒もいるんです。でもExpressはシンプルで、使いたい機能だけが抽出されている感じ。初心者にも使いやすく、自主的に生徒がいろいろ触れてやってみるにはちょうどいい」と白井先生は語ります。1年間のカリキュラムの間に、順次追加されていったAdobe Expressの新機能(グラデーション、CMYK保存、トンボ・定規など)も、先生が気づくより早く生徒たちが発見し、積極的に活用していったそうです。
また、Adobe Expressの特徴の1つでもある豊富なテンプレートについては、専門教科としての「情報デザイン」では、白井先生は「テンプレートはベースとして使ってもいいよ、ただしテンプレートだけで全部作るのはやめてね」と指導しているとのこと。Expressのテンプレートは固定デザインではなく自由に加工できるので、そのまま使うのではなく、自作のイラストや生成AIで作った画像を追加したり、デザインを変更したりすることを求めています。「実際のところ、自身のオリジナリティを出そうとする生徒がほとんど。仮に同じテンプレートから始めても生徒ひとり一人全く異なる作品が仕上がります」
クラスルーム機能で課題や作品の管理が便利に
最近では、Adobe Expressのクラスルーム機能も積極的に活用している白井先生。「(2025年の)12月に実施したクリスマスカード&年賀状の課題はクラスルームに提出してもらいました。Expressの中で完結しているので生徒への課題提出の指示が非常に簡単になりました。提出物の管理もしやすくなってとても便利ですね」
クラスルーム機能は、生徒の課題提出状況を一元管理し、個々の進捗を把握することができるのも強み。生徒の活動状況を可視化することで、必要なアドバイスやサポートをタイムリーに行うなど、きめ細やかな指導も可能になるそうです。
■クラスルームのギャラリー機能を使った生徒たちの作品展示
2025年度の授業で生徒たちが制作したクリスマスカード&年賀状
2026年度の授業でもクラスルームを活用。生徒たちが制作したロゴマーク
「伝えるデザイン」への成長―主体的な探究と社会につながる学び
「情報デザイン」の年間の指導を通して、「自分が見てわからないようなものは、他人にはわからない。情報整理をよく意識して」と繰り返し伝えているという白井先生。その指導のもと、「最初は自分の表現にこだわる生徒も多いですが、課題を重ねるうちに『相手に伝えるデザイン』の重要性を理解し、ユーザー視点を意識できるようになっていきます」
白井先生の年間を通して設計された授業では、Adobe ExpressやFireflyを活用することで、生徒たちが試行錯誤を繰り返ししながら主体的に作品をブラッシュアップし、実社会で役立つ情報デザインの本質を学んでいます。生成AIと共に創作活動を行う際の新しいアプローチの実践例であり、生徒たちが自らのクリエイティビティを発見し、広げ、探究していく方法のヒントとなりうる取り組みと言えるのではないでしょうか。