ライブ演出映像からMVまで。多彩なフォントで映像を彩るkoshi-kunの文字表現|Adobe Fonts×Creators 08

Adobe Fonts×CREATORS タイトルビジュアル

アドビのクラウドフォントサービス「Adobe Fonts」の書体を使い、クリエイティブな活動を繰り広げる人たちにフォーカスする企画「Adobe Fonts × Creators」。
第8回は、ライブ、コンサートの演出映像からMV、CM、大型ビジョン広告映像まで、幅広いフィールドで活躍する映像作家・koshi-kun(こしくん)にフォーカス。映像における文字の扱いかた、Adobe Fontsを使うメリットについて伺いました。

amazarashiに影響を受け、映像の道へ

現在、映像作家としてさまざまなジャンルの映像を手がけるkoshi-kunは、どのようにして映像の道を歩むことになったのでしょうか。まずはその経緯から伺いました。

「映像に興味を持ったのは、名古屋造形大学の3年のときです。
もともとは高校時代に周りからイラストを褒められたのがきっかけで、デッサンのデの字も知らないまま美大に進んだのですが、同級生たちの描く絵を見て、それまで自分が描いていたイラストがお遊びのようなものだったと実感してしまったんです。
所属していたデジタルメディアデザインコースはデザイン、写真、映像等、いろいろなことを体験できるところだったので、入学早々にイラストの道を諦め、さまざまなジャンルを学ぶようになりました」

方向転換を余儀なくされ、粛々と課題をこなすkoshi-kunに、運命を変える出会いが訪れます。それは大学の先輩が見せてくれたという、amazarashiのMVやライブ映像でした。

「ものすごい衝撃でした。アーティストの前に歌詞が動いて表示される、いわゆるリリック系の映像だったのですが、それを見た瞬間、これまで経験したことのない世界に引き込まれてしまったんです。“こういう映像を作ってみたい”、“将来、絶対にこの人たちの映像を手がけるんだ”と心に誓い、そこから一気に映像制作にのめり込んでいきました。
結局、大学3年と4年の2年間、さらに大学院の2年間で映像を学ぶことになるのですが、その間、amazarashiさんのライブ映像を参考に自分で映像を作り、学校のプロジェクターと自前の紗幕を使って、大学の講堂でライブをやったこともありますし、そのDVDに“いつか絶対、演出に携わります、待っていてください”というファンレターを添えて、amazarashiさんのライブ会場で投函したこともあります(笑)。そのくらい僕にとっては衝撃的な出会いだったんです」

koshi-kunポートレート
koshi-kun(こしくん)

映像にかける意欲、作り出す映像の品質と技術力が評価され、koshi-kunは卒業後、コンサートやライブの演出映像を手がける映像制作会社に就職します。

「就職したのはamazarashiさんのライブ演出映像を手がけた会社です。当時はもう、そこに入ることしか考えていなくて、就職活動もそこしか受けなかったくらいです(笑)。面接官は僕が在学中に作った映像を見てくださっていたうえに、僕が衝撃を受けたamazarashiさんの演出映像を作った方で……まさに神様に会ったような気持ちでした」

学生時代は9割が独学だったkoshi-kunは、ここで新しい技術や仕事としての映像の作りかたなどを学ぶことになります。そうして2年半が過ぎた頃、思わぬチャンスが舞い込みます。

「自主制作のようなかたちでアップしていた映像を見てくださっていた演出全体を担当している方から、amazarashiさんのライブ演出の相談をいただいたんです。
もともとお客さんとして参加する予定だったライブに、映像作家として関わることができる……本当にうれしかったですね。本当に運がよかったし、人に恵まれていると思いました。
当日は撮影も担当したのですが、これまで積み重ねていたものが一気に報われた気がして、ボロボロに泣きながら撮影しました。やっていてよかった、続けていてよかったと、心の底から思ったんです」

amazarashi初の武道館ライブ「朗読演奏実験空間"新言語秩序"」が開催された2018年11月16日。koshi-kunにとって映像の原点であり、創作の原動力であるamazarashiのライブに映像作家として参加したこの日は、夢が叶った、ひとつの到達点であると同時に、次のステップへと進むスタート地点になりました。
koshi-kunはその後もライブ演出映像やMVを作り続け、2022年に合同会社STUDIO彩白(いろは)を設立。いまなお、その活動の領域を拡張し続けています。

koshi-kun作業環境
映像制作のメインツールはAdobe AfterEffects。習得は独学で、ほぼデフォルトの画面構成で作業している

タイポグラフィックに、リズミカルに。映像のなかで踊るAdobe Fontsの文字たち

koshi-kunは実写、イラスト、アニメーション等、多彩な映像のなかで文字を活かしたタイポグラフィックな表現を作り上げています。
ここからはkoshi-kunが手がけた仕事の中から、Adobe Fontsのフォントを活用した映像をピックアップして紹介します。

「amazarashiさんの映像をきっかけに、いまの道に進んだくらいなので、基本的に文字を使った演出が好きなんです。それもあって文字を活かす、リリック系映像の依頼をいただくことが多いですね。
amazarashiさんの『下を向いて歩こう』のライブ演出映像では、メンバーの出身地の青森や東京で撮影した路上の映像に歌詞を重ねることで、青森から東京に上京する様子を表現しようと考えました。映像の上に文字を乗せるにあたって、細い明朝ではインパクトに欠けるため、太さと力強さのあるDNP 秀英初号明朝を使っています」

Adobe Fonts使用事例
Adobe Fonts使用事例
amazarashi 「下を向いて歩こう」/amazarashi Live Tour 2023「永遠市」演出映像

「THE ORAL CIGARETTESのライブイベント『PARASITE DEJAVU 2022~2DAYS ARENA SHOW in SAITAMA~』では、『BUG』という曲の演出映像を担当しました。演出上、アーティストはシルエットとして見せたいという依頼だったので、あざやかな色と太い文字を使って、インパクトのある映像に仕上げています。
こうしたアーティスト背面の大型LEDに映す映像は、パソコンやスマホで見る映像とは見えかたがまったく異なるので、映像にライブのセットを組み込んで、客席からどう観えるかをシミュレーションしていくのですが、会場の環境によっては現地での調整が必要なこともあります。

そうした場合でも、映像内のフォントをAdobe Fontsのものにしておけば、自身が現地に行けないときも、別の現地スタッフに対応してもらうことができるのは便利ですよね。
アドビのユーザーなら同じフォント環境を再現できるメリットを活かして、自分以外も触る可能性があるデータや、他の方と一緒に映像を作るときは、基本的にAdobe Fontsのフォントを使うようにしています」

https://www.youtube.com/watch?v=1pc-bzp_uQk

THE ORAL CIGARETTES「PARASITE DEJAVU」|「BUG」ライブ演出映像

「tuki.さんのライブでは、リュウミンを使った演出映像を作りました。LEDの境界が見えてしまうと、いかにも映像を映し出しているように感じてしまうので、ここでは黒地に白文字にすることで、大型LEDを暗い背景となじませ、空間を広く見せるようにしています。
こうした文字は、Illustratorで組んだものをAfterEffectsで動かすケースがほとんどです。文字を狙い通りにきれいに組もうとすると、やっぱりAfterEffectsより、Illustratorのほうがコントロールしやすいんですよね」

https://www.youtube.com/watch?v=Ej5sYrSf0Ns

tuki. 「最低界隈」1st Live at NIPPON BUDOKAN

「Guianoさん、理芽さんの『言っちゃいけないことばっか浮かぶよな』のMVでは、日本語にHina Mincho、英語にGreat Vibesなどを使いました。公開されたばかりの『風景を見るあなたの瞳に、神はいた』で使っているTOT-雫花角丸明朝もAdobe Fontsのフォントですね。
この映像では日本語を一文字単位で動かしているのですが、こうしたリリック系映像の場合、文字単位のほかに画数で文字をバラバラにして動かすこともあります。日本語は画数ごとにバラバラにして動かすことで、日本語のきれいさや文字を“書く”ということを、違った視点から表現することができるのが特徴だと思います」

https://www.youtube.com/watch?v=ny_GQxJ4FeE

Guiano x 理芽「言っちゃいけないことばっか浮かぶよな」MV

https://www.youtube.com/watch?v=v7cxuddmKMA

Guiano「風景を見るあなたの瞳に、神はいた」

「96猫さんの『Walk My Way』MVでは、日本語部分にルイカ、英語部分にProtest Strikeを使いました。
ルイカを選んだのは、文字の読みやすさやかたちはもちろんだけでなく、アイヌ語で『橋』という意味を持つ『ルイカ』という言葉が、『Walk My Way』=歩いて行くという曲のコンセプトにもピッタリだと感じたからです。いろいろなところに歩いて行って、人とつながっていくイメージを、映像表現だけでなく、フォントが持つ背景でも表現できないかと考えました。あくまで表には出さない、自分のなかでの裏設定のようなものですが、書体のバックグラウンドまで見て、書体を選ぶことは割と多いんですよね」

https://www.youtube.com/watch?v=qGEwu5VSX3E

96猫「Walk My Way」MV

「VOLTACTIONさんの『Crazy World』MVでは、リュウミンとEurostileをメインで使いました。日本語は一文字ずつの動かしから、一画ずつの動かしまで、さまざまなパターンを取り混ぜています。
映像内に使う書体は統一することもあれば、細かく変えることもありますが、この映像のように歌詞の言葉に意味を持たせたり、強調したりするときは、書体を変えてタイポグラフィックに見せるようにしています」

https://www.youtube.com/watch?v=X32jvQairAU

VOLTACTION「Crazy World」

「『10000000回遊びたい / All Guys』MVでは、ABJグーを使った文字を字幕的に処理しています。文字がめちゃくちゃかわいくて、ほかの仕事でもよく使っている書体ですね。映像内のゲームUIでは、ABカントリーロードを使ってレトロゲーム感を出しています。
『フォーマンセル』MVでは、タイトルにStick(ステッキ)、歌詞にFOT-筑紫Aオールド明朝を使いました。こうした個性的なデザイン書体が豊富に揃っているのは、ほかのフォントサブスクサービスにはない、Adobe Fontsのいいところですね」

https://www.youtube.com/watch?v=nlljQF2294s

天開司・歌衣メイカ・兎鞠まり・ガッチマンV「10000000回遊びたい / All Guys」MV

https://www.youtube.com/watch?v=CVTuH8tVShc

TOP4(キヨ・レトルト・牛沢・ガッチマン)「フォーマンセル」MV

Adobe Fonts使用書体・見本
Stick(ステッキ) https://fonts.adobe.com/fonts/stick

「ロボ子さん『現世アリス』MVは、一枚絵+リリックで見せるシンプルな構成ですが、文字にDNP 秀英初号明朝を使うことでスタイリッシュに仕上げています。DNP 秀英初号明朝は、強弱のある線、墨のしっかりした感じがすごく好きなんです。
絵に対して大きくDNP 秀英初号明朝の文字を入れる構成は、グラフィック表現としてはやや強すぎるかもしれませんが、映像だと動きがあるため、視認性を上げる意味も込めて、楽曲によっては太めのフォントを用いることが多いですね」

https://www.youtube.com/watch?v=_buc53b7gs8

ロボ子さん「現世アリス」

「新宿駅の大型サイネージ・新宿ウォール456で展開されたTVアニメ『忘却バッテリー』の放送を記念した特別映像では、長さ45.6mもある横長のサイネージを、すべてキャラクターのセリフだけで埋めるということにチャレンジしました。
広告としての役割もある映像だったので、フォントには視認性も高く美しいヒラギノ明朝 W6を採用しています。セリフで埋め尽くされた広大なサイネージはまさに圧巻の光景でした」

https://www.youtube.com/watch?v=0AlAskPGJ9w

TVアニメ『忘却バッテリー』新宿ウォール456特別映像

見てくれる人たちの反応が制作のモチベーションにつながる

音楽や作品を丁寧に解きほぐし、映像のなかで独自の世界観を展開するkoshi-kun。その多彩な表現力をどのようにして身につけたのでしょうか。

「最初に就職した会社での経験が大きいですね。
社会人2年目には、年間100組くらいのアーティスト映像を担当していたのですが、リリック系からかわいいアイドル系まで多ジャンルの映像を作るなかで、いろいろな演出方法を身につけることができたと思っています。
いまでは年間250〜300本、常時20本くらいの案件を担当しています。それぞれの作品ごとに演出を考えるのは大変ではあるのですが、不思議なことに、映像を作ることが嫌になったことはこれまで一度もないんですよね」

日々、映像作りに取り組むkoshi-kunは、どこにやりがいを感じているのでしょうか。そしてこれから何を目指すのでしょうか。最後に伺いました。

「自分が演出映像を手がけたコンサートやライブは、できる限り現地で見るようにしているのですが、自分の映像でお客さんが喜んでくれる、盛り上がってくれるのが一番うれしいんですよね。ライブでもYouTubeでも、見てくれた人たちの反応が、僕が映像を作り続けるモチベーションにつながっています。
いまはツアーや1日だけのコンサートなど幅広く依頼をいただいていますが、今後はそのコンサートすべての映像演出を0から100まで、アーティストに提案するところから他のクリエイターに発注するところまで、すべてをまかせてもらえるようになるのが目標です」

koshi-kunポートレート

koshi-kun(こしくん)
映像作家、ディレクター。静岡県島田市出身。
大学院卒業後は映像会社に勤務。2020年からフリーランスとして映像制作を続ける。おもにコンサートでの映像演出やMusic Videoなどを制作。広告などさまざまなジャンルでの映像も手がけ、最近ではGoogleのTV CMなどにモーショングラフィックス制作を担当。
X|https://x.com/koshi_kun
Web|https://www.koshi-kun.com/