Adobe Fireflyとクリエイターが協働。富山市の新キャラクター「やまやま」と「くすくす」ができるまで
富山市は、若い世代に市の魅力をアピールするため、新たなPRキャラクター「やまやま」と「くすくす」を発表しました。その制作プロセスにおいて、生成AI「Adobe Firefly」とプロクリエイターが協働したユニークな取り組みとして、注目を集めています。なぜ「Adobe Firefly」が選ばれたのか、プロクリエイターとの協働によってどのような価値が生まれたのか。プロジェクトを担当した富山市 広報課 シティプロモーション推進係長の浅野哲平さんに伺いました。
富山市 広報課 シティプロモーション推進係長の浅野哲平さん(左)と、富山市 企画管理部 広報課 課長の前坪勝児さん(右)。富山市を代表する景色、立山連峰を背景に撮影
富山市の新キャラクター「やまやま」と「くすくす」
Q:今回のプロジェクトの狙いを教えてください。
浅野さん:10代~20代の若い人に富山を知ってもらい、好きになってもらうことが目的です。中学生までは公立の学校を通じてアプローチしやすいのですが、高校、大学になると市役所と疎遠になり、市の災害情報などを発信するSNSのアカウントもほとんど登録してくれません。次に接点を持つのは結婚や子育ての時期で、その間がすっぽりと空いてしまいます。しかしこの時期は、「どこで暮らすか」を決める重要な時期です。そこで押し付けがましくなく、若い人に市に興味や関心を持ってもらい、さらに愛着を感じてもらうためのアプローチとして、キャラクターを活用することにしました。
Q:キャラクター制作に生成AIを活用した理由は?
浅野さん:理由は大きく2つあって、1つは話題性です。キャラクター制作は多くの自治体がやっていることなので、今からやるならAIという新しい技術を活用すべきという方向性になりました。もう1つは膨大な選択肢から選べることです。生成AIを使えば短時間で多くのキャラクター案を出すことができ、アイデアの取りこぼしが防げると考えました。
今回は、市民ワークショップで集めた約900点のキーワードに、「富山市×観光」の検索ワード約300点を加えた合計約1,200点をもとに、約2,500のキャラクター案を生成しました。こんなことは生成AIがなければできなかったと思います。
Q:生成AIツールはどのように選定されたのですか?
浅野さん:著作権の問題には特に細心の注意を払いました。過去に他の自治体で生成AIの使用が批判を受け、キャラクター制作が中止になった事例もあったからです。文化庁や経済産業省が公開している生成AI活用のガイドラインを読み込んだ上で、事業者公募の仕様書には「著作権的に問題のないツールを使用すること」「依拠性・類似性の両方に配慮した安全な運用を行うこと」を明記しました。
Q:「Adobe Firefly」を選ばれた決め手を教えてください。
浅野さん:最も大きかったのは、学習データのクリーンさと安全性です。「Adobe Firefly」は商用利用が可能で、依拠性の観点からも問題なく使えるツールとして事業者さんから提案を受け、私たちもその評価を共有していました。さらに、エンタープライズ版では訴訟リスクに対してある程度の補償が提供される点も後押しになりました。受注した事業者さんが自社の法務部署にも確認を取った上で提案してくれたことも、安心感につながりました。
「生成AIは誰でも無料で使えるもの」というイメージを持つ方もいますが、安全性を担保するには相応のコストがかかります。庁内の予算申請でも「安全に使うための必要経費」と丁寧に説明し、コンセンサスを取った上で進めました。
プロジェクトの担当者として、公募用の仕様書の策定から運用まで担う浅野さん
「Adobe Firefly」を通じて生み出された2,500案を、クリエイターが中心となって選定し、最終的なキャラクターを作り込んでいった
Q:プロのクリエイターを制作に加えた理由を教えてください。
浅野さん:2,500の案を生み出しても、「どれが良いか」を判断するのは私たち市の職員だけではできません。若者にウケるキャラクターを見極め、先を読んで長く愛されるものにするためには、プロの知見が不可欠だと考え、プロクリエイターの参加を公募の条件としました。事業者さんの提案で若年層に人気のアニメ作家の方に参加いただくことができ、最終的なジャッジと仕上げをお願いしました。
実際の制作は、クリエイターさんと一緒に「Adobe Firefly」によって生成された絵を見ながら「この方向でもう少し工夫できないか」といった対話を重ねる形で進みました。1,200点のキーワードを取捨選択・集約していく中で、最終的に「立山」「路面電車」「薬」「ガラス」という4つに絞り込み、そこから2つのキャラクターを作り上げていきました。
Q:生成AIにクリエイターの視点が加わることで、どんな効果がありましたか?
浅野さん:大きな効果がありました。例えば薬とガラスをモチーフにした「くすくす」というキャラクターには、興奮すると頭のコルク蓋が外れるという設定があります。これは、AIが生成した絵を見たクリエイターさんが「ここが外れると面白いよね」とひらめいたことで生まれたアイデアです。AIの出力がクリエイターのインスピレーションを引き出し、最初から人間だけで考えていたら出てこなかった発想につながった——これこそAIとクリエイターが協働することの醍醐味だと感じています。
また、もうひとつのキャラクター「やまやま」は、生成された当初の案では路面電車を靴のように両足に履いていたのですが、著作権的な安全性を考慮してプロの目で確認・調整し、スケートボードのような形に変更しています。AIによる網羅的なアイデア出しと、プロフェッショナルによる絞り込み、およびリスク管理がうまく融合した事例だと思います。
AIが生成した「やまやま」と「くすくす」の原案
Q:公開後の反響と、今後の展開についてお聞かせください。
浅野さん:まだまだ賛否両論はありますが、ターゲットである若い人にはウケていると実感しています。生成AIを使ったことへの批判に対しては、安直に生成したのではなく、2,500もの案を生み出せるのは生成AIだからこそですが、それはあくまで素材であって、そこからインスピレーションを得て、クリエイターさんがプロの知見をもとに作品として仕上げていったのが『やまやま』と『くすくす』です。
現在は、キャラクターを使って「就活」などをテーマにしたショートアニメをYouTubeで公開しています。実は、富山の主要産業の多くは「くすくす」のモチーフになった「売薬(置き薬)」の歴史に深く結びついています。若い人には富山の薬売りのイメージは薄れていますが、薬を預けて後払いで回収するビジネスモデルが金融の発達を促し、それが地域の資本形成につながっています。「自分たちが暮らすこの豊かな環境のルーツを知ってほしい」という思いも、キャラクターやアニメに込めています。「やまやま」「くすくす」を通じて、富山をもっと好きになってもらえたら嬉しいですね。
富山市の新キャラクター「やまやま」と「くすくす」は、「Adobe Firefly」とクリエイターの協働によって生まれました。生成AIをアイデアの起点として活用し、「どれを選ぶか」「何を変えるか」「どう磨くか」はクリエイターの判断と手仕事によるものです。AIと人間がそれぞれの得意を持ち寄ることで、どちらか一方では生まれなかったキャラクターが実現した好例といえます。